チャイコフスキー《白鳥の湖》解説|あらすじと聴きどころ、白鳥と黒鳥を描く音楽

湖の旋律は、なぜあれほど切なく響くのか

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細かく震える弦楽器とハープの響きの上に、オーボエが長い旋律を歌い始めます。

《白鳥の湖》と聞いて、多くの人が思い浮かべる音楽です。

この曲が流れるのは、王子が夜の湖へ足を踏み入れる場面。そこで出会うオデットは、魔法によって白鳥の姿に変えられた女性です。二人の出会いから裏切り、最後の湖畔までを知ると、同じ旋律の響き方も変わってきます。

チャイコフスキーが最初に手がけた全幕バレエの音楽《白鳥の湖》。この記事では、物語の流れとともに、舞台を支える管弦楽の動きをたどります。

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1分でわかる、この作品

《白鳥の湖》は、王子ジークフリートと、魔法で白鳥に変えられたオデットの恋を描くバレエです。魔法を解く鍵は、彼女への揺るがぬ愛。
王子は永遠の愛を誓いますが、悪魔ロットバルトが娘オディールをオデットに似せ、舞踏会へ連れてきます。王子は二人を取り違え、別の女性に結婚を誓ってしまいます。最後は再び湖畔へ。二人が死を通じて結ばれる結末も、悪魔を倒して生き残る結末もあります。
音楽は、宮廷のワルツ、湖畔の長い旋律、小さな白鳥たちの軽快な踊りを行き来します。まず聴くなら第2幕冒頭の〈情景〉。白鳥やオデットと結びついて繰り返される旋律が、物語とともにどう変わるかが鑑賞の手がかりです。

まず聴くならここ|第2幕冒頭〈情景〉

最初に旋律を歌うオーボエの音色を覚えてみてください。その旋律が管弦楽全体へ広がると、同じ形の音楽にも違った強さが生まれます。

作品の基本情報

項目内容
作曲者ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840〜1893)
作品名バレエ音楽《白鳥の湖》Op.20
原題Лебединое озеро(英語:Swan Lake)
作曲1875〜1876年。1877年に追加曲を作曲
初演1877年3月4日、モスクワのボリショイ劇場。旧暦では2月20日
初演の振付・指揮ユリウス・ライジンガー/ステパン・リャボフ
後世の上演の基礎となった公演1895年1月27日、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場。
構成原曲は全4幕。上演によって3幕にまとめる場合もあります
編成木管・金管楽器、ティンパニと各種打楽器、ハープ、弦楽器による管弦楽
演奏時間約140分
この記事の対象バレエ全曲。現在広く知られる物語を4幕の流れで案内し、重要な版の違いを補足します

演奏会で取り上げられる組曲《白鳥の湖》Op.20aは、全曲から選ばれた抜粋です。

チャイコフスキーが初めて取り組んだバレエ

家族のために作った、小さな《白鳥の湖》

姪や甥たちの回想によると、チャイコフスキーは1871年、姉の家族のもとで、子どもたちのために短いバレエを作っています。音楽だけでなく踊りも考え、弟モデストも王子役で参加したと伝えられます。

後の《白鳥の湖》と共通する旋律があったという回想も残りますが、その関係を楽譜で詳しくたどれるわけではありません。

収入のため、そして以前からの関心から

チャイコフスキー、1874年頃。撮影者不詳/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典

1875年、モスクワの劇場当局から、チャイコフスキーにバレエ音楽の依頼が届きました。当時はモスクワ音楽院で教えながら、作曲や音楽評論に取り組んでいた時期です。

仕事を引き受けた理由について、彼は同年9月のリムスキー=コルサコフ宛の手紙で、金銭的な必要と、以前からこの種類の音楽を書いてみたかったことを挙げています。

長大な舞台音楽を書くにあたり、チャイコフスキーは既存のバレエの楽譜も研究しました。踊り手が動きやすい拍子やまとまりを備えながら、場面の変化や登場人物の感情まで管弦楽で伝える。その両方が《白鳥の湖》には求められます。

白鳥に変身する女性の伝承から

白鳥へ姿を変える女性の伝承は、ヨーロッパ各地にあります。《白鳥の湖》の台本も、そうした伝承を背景に組み立てられています。単独の原作童話を、そのまま舞台化した作品ではありません。

初演の台本は、一般にウラジーミル・ベギチェフとワシーリー・ゲリツェルの名で紹介されます。ただし、成立過程や執筆の分担には不明な点が残っています。

さらに、初演時の物語と、現在よく上演される物語には違いがあります。ここからのあらすじは、1895年の改訂上演を大きな源流とする、今日なじみ深い筋立てに沿って読み進めてください。

あらすじと音楽をたどる鑑賞ガイド

主な登場人物は4人です。ジークフリートは結婚相手を選ぶよう求められる王子、オデットは魔法で白鳥の姿に変えられた女性。ロットバルトは彼女を支配する悪魔で、娘のオディールを使って王子の誓いを破らせようとします。

オデットとオディールは、通常、一人のバレリーナが踊り分けます。白鳥と黒鳥という呼び名で知られる二役です。

王子はオデットへ愛を誓い、ロットバルトが支配する。悪魔の娘オディールが王子をだます関係図
王子の誓いと、ロットバルト親子の策略。
第1幕の祝宴、第2幕の誓い、第3幕の取り違え、第4幕の再会と決着を示す図
4幕でたどる物語と音楽。結末・曲順は上演版により異なります。

序奏|祝宴の前に聞こえる、悲しみの気配

オーボエのもの悲しい独奏から、管弦楽が次第に動きだします。途中では金管楽器や打楽器も加わり、響きが険しくなっていきます。

物語の最初の場面は王子の祝宴ですが、それに先立つ序奏には、悲劇を予感させる音楽が置かれています。明るい第1幕へ移ったときの変化も、続けて聴くと鮮明です。

第1幕|王子の祝宴と、結婚を選ぶ義務

城の庭で、王子ジークフリートを祝う宴が開かれています。友人たちや人々が踊り、音楽も活気に満ちています。

ここで耳に残るのが、大きく流れるワルツです。3拍子の足取りに乗って旋律が広がり、湖畔の場面とは異なる、人の集まる場所の華やかさをつくります。三人で踊るパ・ド・トロワも、個々の踊り手の軽やかさや技巧を楽しめる場面です。

やがて王子の母が現れ、翌日の舞踏会で花嫁を選ぶよう告げます。王子には、まだ自分の意思で愛する相手を決めたいという気持ちがあります。

宴が終わり、夕空を白鳥の群れが通り過ぎると、王子は狩りへ向かいます。音楽にも白鳥と結びつく主題が姿を現し、人々の踊る庭から夜の湖へ、舞台の空気が変わっていきます。

第2幕|白鳥の正体と、湖畔で交わされる誓い

1877年の白鳥の湖第2幕の舞台装置案
F. Gaanenによる第2幕の舞台装置案、1877年。Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典

湖へ来た王子は白鳥を狙いますが、目の前に現れたのは、人間の姿をしたオデットでした。

彼女と仲間たちはロットバルトの魔法にかかり、昼は白鳥、夜だけ人間に戻る生活を強いられています。その魔法を解くには、これまで誰も愛したことのない男性が、オデットへの永遠の愛を誓い、守り抜かなければなりません。王子は彼女を愛し、救うと誓います。

この幕の冒頭の〈情景〉で歌われるのが、白鳥やオデットと結びつく「白鳥の主題」です。

長く伸びる旋律に対し、その下の弦楽器は細かく震え続けています。歌う声のような動きと、静止しない伴奏が重なることも、この音楽を切なく感じさせる要素の一つでしょう。やがて金管楽器も加わると、個人のつぶやきのようだった旋律が、舞台全体を満たす響きへ変わります。

オデットと王子が踊る二人の踊り、パ・ド・ドゥでは、独奏ヴァイオリンやハープが繊細な響きをつくります。管弦楽全体の厚みが薄くなり、一つの旋律の小さな動きまで耳に届く場面です。踊りを見るときも、二人の距離や、オデットが王子に体を預ける動作と音楽を重ねると、関係の変化を追いやすくなります。

この幕のもう一つの聴きどころが、〈4羽の白鳥の踊り〉です。四人が手をつなぎ、足と頭の動きをそろえます。大勢の白鳥の群舞、主役二人の踊り、四人の短い踊りと、人数や動きのまとまりが変わることも、湖畔の場面を見飽きさせません。

夜明けが近づくと、オデットたちは再び白鳥へ戻らなければなりません。王子との時間はそこでいったん閉じられます。

第3幕|舞踏会の華やかさの中で、誓う相手を取り違える

城では、花嫁選びの舞踏会が始まります。王子は候補の姫たちを紹介されても、オデットを忘れられません。

そこへロットバルトが、娘オディールを伴って現れます。オディールは魔法によってオデットに似せられており、王子は愛する女性が会いに来たと思い込みます。

舞踏会を彩るのは、ハンガリー、スペイン、ナポリなどの性格を持たせた踊りです。ゆっくりした部分から速い部分へ移るチャルダーシュ、カスタネットの響くスペインの踊りなど、リズムと楽器の色が次々に変わります。王子が花嫁を選ぶ公の場には、湖畔とは異なる華やかな音楽が並びます。

オディールと王子の〈黒鳥のパ・ド・ドゥ〉では、二人で踊る部分に続き、それぞれの独舞や、最後の華やかな踊りが繰り広げられます。黒鳥役のフェッテは、その代表的な見せ場です。片脚を軸に、もう一方の脚を振り出しながら回転を続ける動きで、音楽の拍とともに技巧の鮮やかさを楽しめます。

王子はオディールを花嫁に選び、愛を誓ってしまいます。ロットバルトの策略が明らかになり、本当のオデットの姿を認めたときには、すでに誓いは破られていました。王子は城を飛び出し、湖へ向かいます。

第4幕|再び湖へ戻った二人に、どんな結末が待つのか

湖畔では、オデットが仲間たちに王子の裏切りを伝えています。駆けつけた王子は、だまされたことを説明し、許しを求めます。

この先の筋立ては、上演版によって異なります。ここでは、まず死を通じて結ばれる結末をたどります。

オデットは王子を許し、二人は愛を確かめ合います。そこへロットバルトが現れ、王子にオディールとの結婚の誓いを守るよう迫ります。王子が別の女性に誓いを立てたため、オデットを魔法から解放する条件は満たせなくなっているのです。

王子はオディールとの結婚を拒み、オデットと死をともにする道を選びます。二人が湖へ身を投げると、ロットバルトの力は破られます。1895年版では、死後の世界で結ばれた二人の姿が示され、悲劇の先に救いが置かれました。

生還する結末もあります。マリインスキー劇場のコンスタンチン・セルゲーエフ版では、王子がロットバルトと戦い、その翼を折って倒します。魔法は解け、オデットと王子は朝の光を迎えます。

音楽では、白鳥の主題が激しい管弦楽の動きと結びつき、終結では明るい長調の響きへ至ります。死後の結びつきにも、生きて得た解放にも、この明るさを重ねることができます。

まず聴きたい3つの場面

金色の照明と深紅のカーテンに彩られた無人の舞踏会場
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1.第1幕のワルツ|3拍子の足取りと、長く流れる旋律

まず伴奏の「1、2、3」という拍のまとまりを感じ、その上に乗る旋律を追ってみてください。旋律は伴奏の一拍ごとに区切れず、もっと長いまとまりで流れます。足取りの明確さと、上半身が大きく動くような歌の広がりを、一緒に楽しめる曲です。

2.第2幕〈4羽の白鳥の踊り〉|短い音のそろい方を楽しむ

長い音で歌う湖畔の旋律に比べ、こちらは音の始まりと終わりがはっきりしています。木管楽器の音の粒と、踊り手の小さな足取りがどう重なるかに注目すると、動きがそろう面白さを、耳からも感じ取れます。

3.第3幕〈ナポリの踊り〉|一つの管楽器が場面を変える

トランペットに近い金管楽器、コルネットの明るく張りのある独奏が目印です。後半へ向かう加速と、細かい音を軽々と運ぶ独奏を聴いてみましょう。白鳥の主題とは異なる、チャイコフスキーの歯切れのよい一面に出会えます。

もう一歩、深く楽しむために

衣装室に並んだ白と黒のバレエ衣装
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一人の踊り手が、似ている二人をどう演じ分けるか

オデットは繊細、オディールは華やか。その対照は鑑賞の入り口になりますが、黒鳥の踊りにも、ゆったりと歌う部分があります。

王子をだますには、オディールがオデットに似ている必要があります。同じ踊り手が、腕の使い方、顔の向け方、王子への近づき方を変えながら、ときには似た姿も見せる。その細かな演技を、旋律の流れと一緒に見てみてください。

なお、現在の〈黒鳥のパ・ド・ドゥ〉で使われる音楽の中心には、原曲の第1幕にあった第5番のパ・ド・ドゥが転用されています。

群舞を見ると、湖畔の音楽の広がりがわかる

1885年頃の振付家レフ・イワーノフ
レフ・イワーノフ、1885年頃。撮影者不詳/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典

主役の二人に目を向けていると、白鳥たちは背景のように見えるかもしれません。ところが湖畔では、群舞の列や曲線が変わることで、舞台全体の形も動き続けています。

一人の踊りを追ったあと、少し視野を広げ、白鳥たちの並び方と管弦楽のまとまりを見比べてみましょう。旋律が繰り返される間に、舞台のどこに空間が生まれ、どこに人が集まるのか。

この湖畔の群舞を大きく育てたのが、振付家レフ・イワーノフです。翼や首を思わせる腕と上体の動きが、人間の踊りと白鳥の姿を結びつけています。

初演から、現在の《白鳥の湖》へ

初演は決定的な成功にならず、それでも上演は続いた

1877年の初演は、今日の名声につながる決定的な成功にはなりませんでした。振付や音楽をめぐる評価も一様ではありません。

それでも作品は初演直後に消えたわけではなく、改変されながら1882〜1883年のシーズンまでモスクワで上演されました。

生前にも訪れた、プラハでの好評

1888年、チャイコフスキーはプラハで第2幕の上演に立ち会いました。全曲ではありませんが、湖畔の音楽と踊りが好意的に迎えられる機会を、生前に経験しています。

この第2幕は、以前に一幕だけの上演について相談された際にも、作曲家自身が選んだ部分でした。

チャイコフスキーが亡くなったのは1893年。翌1894年、追悼公演でイワーノフ振付による湖畔の場面が上演され、全曲を新たに舞台へ戻す準備が進みました。

1895年、振付・台本・音楽が組み直された

1890年代前半頃の振付家マリウス・プティパ
マリウス・プティパ。Commonsの現在の年代表記は1890〜1895年頃。撮影者不詳/パブリックドメイン。 出典

1895年1月27日、マリインスキー劇場で新しい《白鳥の湖》が上演されます。

振付はマリウス・プティパとイワーノフが分担し、宮廷の場面を主にプティパ、湖畔の場面をイワーノフが手がけました。二役を踊ったのは、ピエリーナ・レニャーニです。

1895年の白鳥の湖でオデット役のピエリーナ・レニャーニ
オデット役のピエリーナ・レニャーニ、1895年。撮影者不詳/Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典

作曲家の弟モデストは台本の改訂に携わり、指揮者リッカルド・ドリゴは音楽を整理しました。

曲の移動や削除に加え、チャイコフスキーの別作品から編曲した音楽も採り入れられています。

湖畔の白鳥たち、白鳥と黒鳥の二役、舞踏会での技巧的な踊り。今日の《白鳥の湖》を特徴づける舞台は、作曲家の音楽に、振付家や踊り手たちの仕事が重なることで形づくられました。

次に聴くときは、湖へ戻る音楽を追ってみる

全曲へ進むなら、第1幕の終わり、第2幕の湖畔、最後の場面で、白鳥の主題がどのように現れるかを追ってみてください。

最後に白鳥の主題が現れたとき、最初の湖畔とは何が違って聞こえるでしょうか。王子とオデットがたどった出来事とともに、その響きの変化を聴いてみてください。

参考資料・楽譜

作曲家と名曲の物語を、
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作品解説
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