メンデルスゾーン《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調》解説|冒頭の名旋律から、軽やかなフィナーレまで

メンデルスゾーンの代表作「協奏曲の定番」

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オーケストラが静かに動き始めたと思うと、すぐにヴァイオリンが歌い出します。少し切なく、先へ先へと気持ちがあふれていくような旋律。メンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64》は、最初の数秒で独奏の響きに引き込まれる作品です。

聴き進めると、穏やかな歌や、音が跳ね回る軽やかな音楽にも出会えます。三つの楽章は間を空けずにつながり、冒頭の情熱から明るい結末まで、およそ30分です。

親しみやすい旋律に耳を向けながら、独奏とオーケストラが音楽を受け渡す瞬間を聴くと、この協奏曲の面白さがさらに見えてくるでしょう。

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1分でわかる、この作品

メンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲 ホ短調》は、友人のヴァイオリニスト、フェルディナント・ダーヴィトのために書かれた作品です。1838年に構想を伝え、1844年に全曲を書き上げたのちも改訂を重ね、翌年に初演されました。

第1楽章では、長い前奏を置かずに独奏が登場。切ない旋律から激しい音楽へ進み、ヴァイオリンだけで弾く見せ場を経て、冒頭の旋律が戻ります。第1楽章の最後にはファゴットの音だけが残り、そのまま第2楽章の穏やかな歌へつながります。短い移行部分を経て、第3楽章では雰囲気が明るく変わり、独奏と合奏が軽快に駆け抜けます。

まずは冒頭の旋律と、最後の楽章の弾むリズムを聴き比べてみてください。同じヴァイオリンの音が、ずいぶん違う表情に感じられます。

まず聴くなら、第1楽章の冒頭

冒頭では、長く伸びるヴァイオリンの旋律と、その下で動き続ける伴奏を聴いてみてください。音が高くなり、折り返し、再び上を目指す動きに、細かな刻みが重なります。旋律の切なさと、音楽を前へ運ぶ力を一緒に味わえる場面です。

作品の基本情報

項目内容
作曲者フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809〜1847)
作品名ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 Op.64
原題Violinkonzert e-Moll op.64
作品目録番号MWV O 14
成立1838年に構想を手紙で表明。1844年9月16日に自筆総譜完成、1845年まで改訂
初演1845年3月13日、ライプツィヒのゲヴァントハウス
初演者独奏:フェルディナント・ダーヴィト/指揮:ニルス・ゲーゼ/ゲヴァントハウス管弦楽団
献呈フェルディナント・ダーヴィト
構成全3楽章。楽章間をつないで演奏
演奏時間約25〜30分
編成独奏ヴァイオリン、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット各2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦楽合奏

友人に約束した協奏曲が、形になるまで

メンデルスゾーン。エドゥアルト・マグヌス作、1846年。初演の翌年の肖像。パブリックドメイン。 画像出典

頭から離れなかった、ホ短調の始まり

1838年7月30日、メンデルスゾーンはダーヴィトへ、翌冬のためにヴァイオリン協奏曲を書きたいと伝えました。ホ短調の曲が頭にあり、その冒頭が心から離れないという内容です。

ダーヴィトは、ライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団でコンサートマスターを務める奏者でした。メンデルスゾーンにとっては、作品を任せる独奏者であり、演奏の細部について相談できる身近な音楽家でもあります。

この手紙から完成までには、さらに年月がかかりました。指揮や音楽活動に忙しい時期を経て、作曲が本格的に進むのは1844年の夏です。同年9月16日、自筆の総譜に完成の日付が記されました。

書き終えたあとも、二人の仕事は続いた

総譜ができてからも、メンデルスゾーンは音楽を磨き直しています。第1楽章のカデンツァ(独奏だけで弾く見せ場)を大きく拡張し、第2楽章の一部の音域や結び、オーケストラの書き方にも手を加えました。

ダーヴィトは独奏部分の指使いや弓使いを整え、具体的な提案を送ります。作曲家が書いた旋律を、ヴァイオリンの上でどのように歌わせるか。二人の往復書簡からは、そうした実際の演奏に関わる検討が続いていたことがわかります。

1845年の初演から、ヴァイオリンの定番へ

初演の独奏を務めたダーヴィト。ヨハン・ゲオルク・ヴァインホルト作。パブリックドメイン。 画像出典

初演は1845年3月13日、ライプツィヒのゲヴァントハウスで行われました。独奏は約束の相手だったダーヴィト。指揮を務めたのは、デンマークの作曲家ニルス・ゲーゼです。

演奏は成功し、ダーヴィトや当時の音楽雑誌も好意的に報告しています。初演後も楽譜の校正は続き、1845年に出版されると、若いヨーゼフ・ヨアヒムをはじめ、ほかのヴァイオリニストたちへも作品が広がっていきました。

三つの楽章をたどる鑑賞ガイド

三つの楽章と、楽章間をつなぐ音。クリックで拡大できます。

第1楽章|Allegro molto appassionato

待たずに歌い出すヴァイオリン

弦楽器の細かな伴奏に乗って、独奏ヴァイオリンが早くも主題を奏でます。古典派の協奏曲でよく見られる、オーケストラが主要な旋律を先に紹介する長い前奏はありません。

独奏の旋律は伸びやかですが、伴奏は動き続けています。そのため、ゆったり歌っているように感じるところにも、落ち着ききれない勢いが残ります。旋律が高い音へ向かうにつれて熱が増し、細かな音型が続くと、オーケストラも大きく応じます。

旋律の長い音の下でも、伴奏の細かな動きは続きます。この重なりを聴くと、歌が途切れずに先へ進む感覚をつかみやすくなります。

木管が歌い、独奏が低い音を支える

激しい音楽が落ち着くと、フルートやクラリネットが穏やかな旋律を奏でます。明るいト長調の第2主題です。

この入り口では、独奏ヴァイオリンが低いソの音を長く伸ばし、その上で木管楽器が歌います。高音で目立っていた楽器が、今度は旋律の土台を受け持つわけです。やがてヴァイオリンもその歌を受け継ぎ、柔らかな響きを広げます。

冒頭の独奏と聴き比べると、複数の木管楽器が溶け合う、柔らかな音色の違いがわかります。

独奏の見せ場から、主題が戻ってくる

楽章の中ほどでは、それまでに出た旋律の断片が展開され、ヴァイオリンだけで弾くカデンツァへ進みます。ここでは、独奏者の技巧や表現を集中的に聴けます。

この作品では、それが楽章の終わり近くではなく、最初の主題が戻ってくる前に置かれています。複数の音を同時に鳴らす重音や、速い動きが続いたあと、独奏は和音の音を一つずつ連ねるアルペッジョを繰り返し始めます。

すると、その動きを残したまま、オーケストラが冒頭の主題を奏でます。独奏が完全に弾き終わって合奏を待つのではなく、弾き続ける音型の中へ合奏が入ってくるところが聴きどころです。

主題の再登場を経て、終結部では勢いが増し、ホ短調で力強く締めくくられます。そこで音楽が途切れると思うと、ファゴットの音が一本だけ残ります。

第2楽章|Andante

ファゴットの長い音から、穏やかな歌へ

第1楽章から伸びてきたファゴットの音をきっかけに、響きがゆっくり変わり、ハ長調の第2楽章が始まります。独奏ヴァイオリンが奏でるのは、息の長い、穏やかな旋律です。

テンポが落ち着き、長く伸びる音を中心とした旋律が、穏やかに歌われます。速い音の華やかさが控えられたぶん、音のふくらませ方や、フレーズの終わりに残る響きがよく伝わる場面です。

中間部で揺れが生まれる

楽章の途中ではイ短調に移り、伴奏の細かな動きが増えて、穏やかだった空気に不安が差し込みます。独奏にも、歌う旋律と細かく動く音を組み合わせた書き方が現れます。

その後、冒頭の旋律が戻ります。いったん緊張した響きを聴いているため、同じ歌の穏やかさが、初めよりも深く感じられるかもしれません。

静かな結びのあとには、短い移行部分が続きます。「Allegretto non troppo」と記されたこの部分は、終楽章へ向かう準備です。少し物思わしい表情を残しながら、次の音楽へ進みます。

第3楽章|Allegro molto vivace

短いファンファーレで、空気が変わる

管楽器の短い呼びかけを受け、独奏ヴァイオリンが素早く駆け上がります。続く主題は、音が軽やかに跳ねる、弾むような音楽です。

調はホ長調。冒頭のホ短調とは、同じミの音を中心にしながら、明るさが大きく変わります。第1楽章の切迫した歌から、第2楽章の落ち着きを経て、ここで一気に軽快な動きが広がります。

メンデルスゾーンの《夏の夜の夢》を知っている方なら、妖精たちの音楽を思わせる身軽さを感じるかもしれません。細かな音が素早く行き交う書き方には、共通する魅力があります。

軽快な動きの中にも、長い歌がある

独奏の細かな音に対し、オーケストラは輪郭のはっきりした力強い主題を響かせます。音楽が進むと、ヴァイオリンには再び長く歌う旋律も現れます。

速い楽章でも、すべての音が同じようにせわしく動くわけではありません。細かな音型を背景に、伸びやかな旋律が浮かび上がる瞬間があります。そこでは、忙しい動きと大きな歌の二つを一緒に聴いてみてください。

終盤は独奏とオーケストラが勢いを合わせ、ホ長調の明るい響きで全曲を結びます。

まず聴きたい三つの場面

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1.第1楽章のカデンツァの終わり

目印は、独奏が繰り返すアルペッジョです。オーケストラが戻ってきても続く、ヴァイオリンの動きを追ってみてください。

2.第1楽章から第2楽章へつながるところ

全曲演奏で、合奏が止まったあとに残るファゴットの音を探してみてください。第2楽章まで続けて聴くのがおすすめです。

3.第3楽章の始まり

管楽器の呼びかけのあとに、独奏がどう飛び出すかを聴いてみてください。速い音の粒がくっきりした演奏、柔らかくつながる演奏では、同じ主題の身軽さにも違いが感じられます。

独奏者が「伴奏に回る」と、何が聴こえる?

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この曲をもう少し深く楽しむなら、独奏ヴァイオリンが主旋律を弾いていない場面に注目するのも一つの方法です。

第1楽章で見た、第2主題の入り口とカデンツァの終わりを比べてみましょう。前者ではヴァイオリンの音が長く保たれ、後者では細かく動いています。木管が歌う場面には落ち着いた広がりが生まれ、カデンツァのあとの再登場には、独奏の勢いがそのまま持ち越されます。

同じ「支える役目」でも、独奏の動きは異なります。クリックで拡大できます。

独奏を追い続ける聴き方から少し耳を広げると、主旋律の位置が何度も変わっていることに気づきます。誰が歌い、誰が動きをつくるのか。その組み合わせが、この協奏曲の流れを豊かにしています。

次に聴くときは、旋律の受け渡しを

聴くときは、独奏以外の楽器が旋律を受け持つ場面を一つ探してみてください。ヴァイオリンの歌を入口に、合奏の響きへ少しずつ耳を広げてみましょう。

楽譜を見る・参考資料

IMSLPで《ヴァイオリン協奏曲 Op.64》の楽譜を見る

参考資料:

作曲家と名曲の物語を、
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作品解説
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