メンデルスゾーン《夏の夜の夢》Op.61解説|《結婚行進曲》の前後に広がる、妖精と恋人たちの一夜

《結婚行進曲》は、恋が混乱する森から生まれた

結婚式でおなじみの、華やかな《結婚行進曲》。あの音楽が生まれたのは、恋人たちが森で相手を取り違え、妖精の女王がロバの頭をした男に恋をする、シェイクスピアの喜劇でした。

メンデルスゾーンの劇付随音楽《夏の夜の夢》には、この祝祭のほかにも、素早く飛び交う妖精たち、不安に駆られて走る恋人、眠りに落ちた人々を包む静けさが描かれています。曲ごとに音の動きも、中心になる楽器も変わるため、物語を知ると、その違いがはっきり聴こえてきます。

さらに、この作品は一度に書かれたものではありません。17歳で作曲した序曲に、34歳になってから舞台のための音楽を加えました。17歳で書いた序曲が、17年後、劇全体を彩る音楽の出発点になりました。

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1分でわかる《夏の夜の夢》

メンデルスゾーンの《夏の夜の夢》Op.61は、シェイクスピアの同名の喜劇に付けた音楽です。父の決めた結婚を拒むハーミアは、恋人ライサンダーと森へ逃げます。二人を追う男女も加わり、妖精の惚れ薬によって恋の相手が入れ替わる騒ぎに。別の場所では、妖精の女王がロバの頭に変えられた職人に恋をしてしまいます。夜が明けると混乱は収まり、三組の結婚と祝宴、妖精たちの祝福へ進みます。

音楽には、妖精の素早さを感じさせる《スケルツォ》、眠る恋人たちに寄り添う《夜想曲》、華やかな《結婚行進曲》などがあります。

まず聴くなら《スケルツォ》

妖精たちが暮らす森への入口となる曲です。まずは、短い音が次々に飛び交う軽快さを楽しんでみてください。

作品の基本情報

項目内容
作曲者フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(1809–1847)
作品名劇付随音楽《夏の夜の夢》Op.61
原題Musik zu Ein Sommernachtstraum
原作ウィリアム・シェイクスピアの喜劇『夏の夜の夢』
成立1842年に委嘱が確認され、1843年に完成
初演1843年10月14日、ポツダムの新宮殿。メンデルスゾーン指揮
初演の上演言語ドイツ語。アウグスト・ヴィルヘルム・シュレーゲル訳
構成Op.61は第1〜13曲。これに既作の序曲Op.21を組み合わせます
演奏者管弦楽、女声独唱2人、女声合唱。舞台上演では俳優の台詞も伴います
演奏時間抜粋する曲、台詞や語りの有無によって大きく変わります

独唱は楽譜上、二人ともソプラノですが、録音や公演では第2独唱をメゾソプラノが担当することもあります。管弦楽には木管楽器、ホルン、トランペット、トロンボーン、低音金管楽器、ティンパニ、トライアングル、シンバル、弦楽器を用います。低音金管のオフィクレイドは、現代の演奏ではテューバで代用されることがあります。

17歳の序曲から、34歳の舞台音楽へ

メンデルスゾーン。ヴィルヘルム・ヘンゼル画、1847年。所蔵:デュッセルドルフ市立博物館。Public domain/Wikimedia Commons。 出典

最初に生まれたのは、劇を思い描くための序曲でした

1826年、17歳のメンデルスゾーンは、シェイクスピアの『夏の夜の夢』に着想を得て序曲を書きました。これがOp.21です。

この時点では、劇全体の上演に合わせて一連の音楽を用意したわけではありません。妖精、恋人たち、職人たちという性格の異なる登場人物を、ひとつの管弦楽曲にまとめています。

1833年、メンデルスゾーンは出版社への手紙で、序曲と原作の関係を説明しました。妖精の王と女王、二組の恋人、騒がしい職人たちが現れ、最後には妖精が家を祝福して姿を消す。その劇の流れを、自分の序曲にも重ねていたことが分かります。

プロイセン王の依頼で、森が舞台に現れます

17年後、プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世の依頼により、メンデルスゾーンは実際の芝居のために音楽を作ることになりました。

1842年11月の手紙にはこの仕事への言及があり、翌1843年1月には作曲に取りかかっていたことが確認できます。完成したOp.61には、幕と幕の間の器楽曲、妖精の歌、俳優の台詞に重なる短い音楽など、13の番号が付けられています。

台詞の背後や合間に音楽を置く手法は「メロドラマ」と呼ばれます。ここでいうメロドラマは、感傷的な恋愛劇という意味ではありません。話し言葉と音楽が組み合わされる演劇上の形式です。

すでに知られていた序曲Op.21を入口に据え、新しく書いた曲を劇の各場面に配置することで、現在親しまれている《夏の夜の夢》の音楽がそろいました。

音楽を聴く前に知っておきたい、三つの人々

物語の舞台はアテネと、その近くの森です。登場人物は、まず三つのまとまりで考えると分かりやすくなります。

人間の恋人たちの中心は、ハーミアとライサンダーです。二人は愛し合っていますが、ハーミアの父は娘をディミートリアスと結婚させようとします。ディミートリアスには、彼を愛するヘレナがいます。ハーミアとライサンダーが森へ逃げると、ディミートリアスが後を追い、ヘレナも彼についていきます。

妖精たちを治めるのは、王オーベロンと女王ティターニアです。二人は、ティターニアが養育している少年をめぐって争っています。オーベロンの手下パックは、眠っている人のまぶたに塗ると、目覚めて最初に見た相手を好きになる花の汁を使います。

職人たちは、アテネの公爵シーシアスとヒポリタの結婚を祝うため、芝居を準備している人々です。機織り職人ボトムらが集まり、森で稽古をすることになります。

森へ入る前の関係。矢印は恋心の向きを示します。

物語と音楽をたどる鑑賞ガイド

主な場面と曲の対応。全13曲の曲目表ではありません。

序曲Op.21――森へ入る前に、物語全体を見渡す

序曲は、木管楽器の四つの和音で静かに始まります。その余韻を受けて、ヴァイオリンが小さな音を素早く刻み始めるところが、最初の聴く目印です。

細かな動きのあとには、管弦楽が力強く鳴る場面や、なめらかな旋律、どこか不器用で賑やかな響きも現れます。妖精の身軽さ、人間の恋、職人たちの滑稽さが、同じ曲の中で入れ替わっていきます。

ロバの鳴き声を思わせる音型もあり、優雅な響きの中に急に素朴な笑いが入り込むのが、この序曲の面白さです。終わりには冒頭の和音が戻り、静かに閉じられます。

第1曲《スケルツォ》――人間の街から、妖精の森へ

第1幕が終わると、《スケルツォ》が第2幕の森の場面へつなぎます。街で語られた結婚の決まりや父親の命令を離れ、妖精たちが動き回る場所へ移るための音楽です。

短く切られた音が、木管と弦の間を行き来します。旋律をひとつの楽器だけで追うより、「今どこで音が動いたか」を聴くと、その速さと軽さを楽しめます。

終わり近くにはフルートの目立つパッセージがあり、素早い動きを保ったまま、音楽が軽やかに収まります。

妖精の行進と《歌と合唱》――女王を眠らせる声

第2曲には妖精の行進があり、第3曲《歌と合唱》では、独唱と女声合唱が加わります。

妖精たちが歌うのは、眠りにつくティターニアを、蛇や虫などから守るための歌です。英語では「Ye spotted snakes」、ドイツ語では「Bunte Schlangen」で始まります。管弦楽だけの抜粋では聴けない、全曲版ならではの場面です。

歌詞では近づいてほしくない生き物を追い払い、繰り返される子守歌で女王を眠りへ誘います。その眠りを利用して、オーベロンは彼女のまぶたに惚れ薬を塗ります。女王が目覚めたとき、どんな相手に恋をするかも構わず、彼女を懲らしめようとするのです。

第5曲《間奏曲》――恋人を探す不安から、職人たちの登場へ

オーベロンは、ディミートリアスに冷たくされるヘレナを見て、彼女の恋をかなえようとします。パックに命じて男のまぶたへ惚れ薬を塗らせますが、パックは人違いをし、眠っていたライサンダーに薬を使ってしまいます。目覚めた彼が最初に見たのはヘレナでした。

ハーミアが目を覚ますと、隣にいるはずの恋人がいません。ライサンダーは、突然好きになったヘレナを追って去っていたのです。

《間奏曲》の前半では、細かく震える弦の上で、落ち着かない旋律が動きます。木管とヴァイオリンの受け渡しにも切迫感があり、森で恋人を探すハーミアの不安と結びつきます。

やがて音楽は、素朴で足取りのはっきりした調子に変わります。次の場面で芝居の稽古をする職人たちの登場です。ひとつの曲の途中で、張りつめた恋の騒ぎから、職人たちの身近な可笑しさへ移るところを聴いてみてください。

第7曲《夜想曲》――追いかけ合った四人が、眠りにつく

エドウィン・ランドシーア《ティターニアとボトム》、1848–1851年。所蔵:ビクトリア国立美術館。Public domain/Wikimedia Commons。 出典

芝居を稽古していたボトムは、パックのいたずらで頭をロバに変えられてしまいます。そこへ目覚めたティターニアは、惚れ薬のために彼に恋をし、そばへ招き寄せます。

恋人たちの間では、オーベロンがディミートリアスにも薬を使い、今度は二人の男がそろってヘレナに求愛します。ヘレナはからかわれていると思い、ハーミアは恋人を奪われたと怒り、四人の言い争いになります。

パックは決闘しようとする男たちを互いに会わせないよう誘導し、疲れた四人は眠りに落ちます。彼はライサンダーの目に解毒の薬を使い、ハーミアへの恋心を取り戻させます。

そこで流れる《夜想曲》は、ホルンのゆったりした旋律が中心です。ファゴットがその響きに寄り添い、それまでの細かな動きが落ち着き、ゆったりした旋律が続きます。

中ほどで音の動きや響きが変わっても、やがて最初の落ち着きが戻ります。ホルンの旋律だけでなく、その下で音を支える楽器にも耳を向けると、柔らかな厚みが感じられます。

第9曲《結婚行進曲》――森の夜が明け、祝宴へ

オーベロンはティターニアの魔法を解き、二人は仲直りします。ボトムの頭も元に戻ります。

朝になると、公爵シーシアスは森で恋人たちを見つけます。ライサンダーはハーミアを、ディミートリアスはヘレナを愛しており、四人の気持ちはようやく一致しました。二組の結婚が認められ、公爵とヒポリタの結婚と合わせて、三組を祝うことになります。

第4幕と第5幕をつなぐ《結婚行進曲》は、トランペットのファンファーレで始まります。そのあとに続く大きく明快な主題は、前の《夜想曲》から一転して、祝祭の場が開けたことを伝えます。

聴きどころは冒頭だけではありません。途中には旋律がなめらかに歌われる部分もあり、主題が戻ると、力強い拍の感触がいっそう際立ちます。金管楽器やシンバルを含む響きの広がりも、妖精の音楽とは大きく異なります。

職人たちの芝居と踊り――結婚のあとにも、笑いが続く

祝宴では、ボトムたちが『ピラマスとシスビー』の芝居を演じます。本人たちは悲しい恋の物語を一生懸命演じますが、不器用な演技や説明が可笑しさを生みます。

この劇中劇に伴う短い葬送行進曲や、第11曲の職人たちの踊りも、Op.61の一部です。恋人たちの結婚を盛大に祝ったあとに、手作りの芝居と踊りが置かれることで、終幕の雰囲気はぐっと親しみやすくなります。

第13曲《終曲》――人間が去った家を、妖精たちが祝福する

祝宴を終え、人間たちが休んだあと、妖精たちが現れます。終曲には歌が戻り、オーベロンとティターニアたちは、新婚の人々とその家を祝福します。

ここまで聴くと、全体の結末が《結婚行進曲》の華やかさとは違うことが分かります。人間たちの騒ぎが収まったあと、もう一度、妖精の声と管弦楽の繊細な響きに耳を澄ませて終わる作品です。

まず聴きたい三つの場面

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1.軽い音を追いたいなら《スケルツォ》

まず軽快な曲を一曲聴きたい方に。

2.ゆっくり聴きたいなら《夜想曲》

穏やかな旋律をゆっくり味わいたい方に。

3.よく知る曲を聴き直すなら《結婚行進曲》

よく知る旋律から、曲全体を聴いてみたい方に。

妖精、恋人、職人――音色で描き分ける三つの世界

登場人物を聴き分けるときは、どの楽器が旋律を奏でるかに加え、周りにどれだけ音が重なっているかにも注目できます。

妖精の音楽では、高い音域の弦や木管が細かく動くところで、低い楽器の重みが控えられています。高音だけが素早く動く響きと、管弦楽全体が鳴る響きの差が、妖精の身軽さを際立たせます。

職人たちの場面には、同じ低音を保ちながら進む素朴な響きが現れます。旋律の下で土台となる音が動かずに鳴り続けると、足取りのはっきりした音楽になります。

恋人たちが眠る《夜想曲》では、ホルンとファゴットの音が重なり、柔らかな厚みをつくります。音域や楽器の組み合わせを変えることで、同じ森の場面にも異なる表情を与えています。

《結婚行進曲》で終わる抜粋と、妖精が戻る全曲

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演奏会では、序曲、《スケルツォ》《間奏曲》《夜想曲》《結婚行進曲》を取り上げる構成がよく見られます。この並びでは、最後に祝祭の大きな響きが置かれ、管弦楽曲として明快な終わり方になります。全曲を聴く場合は、その先の職人たちの音楽や、女声の歌を伴う終曲まで続きます。

そのため、録音を選ぶときは「全曲」「抜粋」「組曲」という表記とともに、収録曲を確認すると分かりやすくなります。まず器楽曲を楽しみ、次に歌と台詞を含む演奏へ進む聴き方はいかがでしょうか。

初演では、音楽に合わせて舞台を調整しました

1843年の上演を演出したルートヴィヒ・ティークは、原作の第2〜4幕を続けて上演する構成を採りました。ところがメンデルスゾーンは、原作の五幕構成に沿って音楽を書いていたため、幕間用の《間奏曲》と《夜想曲》をどう扱うかが問題になります。

そこで両曲を削らず、幕を開けたまま演奏することになりました。《間奏曲》ではハーミアが恋人を探す動作をし、《夜想曲》では四人の恋人が舞台上で眠ります。今日、演奏会で独立した名曲として聴く音楽にも、こうした舞台上の調整がありました。

初演は1843年10月14日、ポツダムの新宮殿で宮廷向けに行われ、4日後にはベルリンで一般公開の上演がありました。楽譜は声楽譜が1844年、総譜が作曲者の死後の1848年に出版されています。

次は、妖精の歌と終曲まで

器楽曲に親しんだら、次は妖精の歌と終曲を含む演奏を聴いてみてください。《結婚行進曲》のあとにも続く物語を、音楽とともに楽しめます。

楽譜を見たい方へ

IMSLPで劇付随音楽《夏の夜の夢》Op.61の楽譜を見る

参考資料

作曲家と名曲の物語を、
YouTubeでも解説しています。
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作品解説
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