プッチーニ『トスカ』のあらすじ・聴きどころの解説|歌姫が握った一枚の通行証

一枚の通行証に託した、恋人たちの明日

夜明けを待つローマ。石壁の向こうに街の明日が広がる。

恋人を救える。夜が明ければ、この街を離れられる。歌姫トスカが握りしめたのは、警察長官の署名が入った一枚の通行証でした。けれど、その約束をした男は、彼女が思う以上に恐ろしい人物だったのです。

プッチーニのオペラ『トスカ』は、歌姫と画家の恋が、ローマの政治と権力に巻き込まれていく物語。教会で交わす可愛らしい恋人同士のやり取りから、息をのむ駆け引き、夜明けの別れまで、たった一昼夜ほどの出来事が濃密に描かれます。

「歌に生き、愛に生き」「星は光りぬ」。名曲だけを知っていても、その歌が生まれる瞬間まで追うと、旋律の表情が変わって聞こえてきます。美しい歌声のすぐ隣に、足音、鐘、悲鳴、銃声がある。『トスカ』の劇場では、音そのものが事件を動かしていきます。

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作曲ジャコモ・プッチーニ
台本ルイージ・イッリカ/ジュゼッペ・ジャコーザ
原作ヴィクトリアン・サルドゥの戯曲『ラ・トスカ』(1887年初演)
初演1900年1月14日、ローマ・コスタンツィ劇場
原語・構成イタリア語/全3幕
舞台1800年6月のローマ。教会、ファルネーゼ宮殿、サンタンジェロ城
演奏時間約2時間前後。新国立劇場2024年公演の幕別予定合計は125分
休憩込み約2時間50分〜3時間程度が目安。新国立劇場2024年公演は約2時間55分(休憩25分×2回)

1分でわかる『トスカ』のあらすじ

1800年のローマ。画家カヴァラドッシは、脱獄した政治犯アンジェロッティをかくまいます。警察長官スカルピアは、画家の恋人で歌姫のトスカの嫉妬をあおり、隠れ家を突き止めようとします。捕らえられた恋人の拷問に耐えられず、トスカは秘密を明かしてしまいます。さらにスカルピアは、恋人の命と引き換えに自分に身を任せるよう迫ります。トスカは見せかけの処刑と国外への通行証を約束させ、彼を刺殺。夜明けの城で恋人と再会し、銃声に合わせて倒れれば助かると伝えます。しかし処刑は本物でした。恋人の死を知ったトスカは、追ってきた警官たちを振り切り、城壁から身を投げます。

登場人物――愛する二人と、二人を追い詰める男

トスカとカヴァラドッシは恋人同士。スカルピアは二人を権力で追い詰める。

中心となるのは三人です。トスカとカヴァラドッシは恋人同士。スカルピアは警察の権力を使ってカヴァラドッシを捕らえ、トスカを手に入れようとします。脱獄囚アンジェロッティの救出が、二人を事件へ引き込むきっかけになります。

フローリア・トスカ|愛情にも信仰にもまっすぐな歌姫

ソプラノ。人々に愛される歌手で、恋人を深く愛しています。嫉妬すると感情を隠せず、教会では聖母に花を供える敬虔さも持っています。恋人と過ごす夜を楽しみにしていた彼女が、その日のうちに命をめぐる決断を迫られます。

マリオ・カヴァラドッシ|逃亡者に手を差し伸べる画家

テノール。トスカの恋人で、共和派に共感する画家。教会で聖女の絵を描いています。危険を承知でアンジェロッティを助け、その居場所を守るため、警察の尋問にも口を割りません。トスカをなだめる優しさと、権力に屈しない激しさが同居しています。

スカルピア男爵|捜査と欲望を結びつける警察長官

バリトン。ローマを恐怖で支配する警察長官。相手が何を恐れ、誰を愛しているかを読み取り、それを支配の手段にします。カヴァラドッシの逮捕を利用してトスカに迫り、部下への命令にも二重の意味を忍ばせます。

アンジェロッティは脱獄した政治犯で、旧ローマ共和国の執政官(バス)。その姉アッタヴァンティ侯爵夫人は、弟の逃亡を助けるため教会に衣装を用意します。警官スポレッタ(テノール)はスカルピアの命令を実行する人物です。侯爵夫人は舞台に現れませんが、彼女を描いた絵と扇が、事件の重要な手掛かりになります。

詳しい物語――教会の昼から、城の夜明けへ

第1幕|恋人の嫉妬が、警察の手掛かりになる

舞台はローマのサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会。脱獄したアンジェロッティが駆け込み、姉が用意した鍵で礼拝堂に身を隠します。そこへ戻ってくるのが、絵の制作中のカヴァラドッシです。

彼の描くマグダラのマリアには、金髪と青い目をした女性の面影があります。教会で祈っていたアッタヴァンティ侯爵夫人を、ひそかに絵のモデルにしていたのです。彼は恋人トスカの肖像を取り出し、異なる美しさが絵の中で結びつく不思議を歌います。これが「妙なる調和」。絵を見つめながらも、心は黒い瞳のトスカに向かっています。

教会の堂守が去ると、アンジェロッティが姿を現します。やつれた顔に旧共和国の執政官の面影を見つけ、カヴァラドッシはすぐに援助を申し出ます。しかし、外からトスカが恋人の名を呼びます。画家は逃亡者を再び隠し、彼女を迎え入れます。

絵の女性を見て嫉妬するトスカと、彼女をなだめるカヴァラドッシ。

トスカは閉まっていた扉と、内側から聞こえた話し声を不審に思います。それでも、今夜の仕事が終わったら二人で別荘へ行こう、と恋人に甘えます。そこで目に入るのが、金髪の女性を描いた絵。モデルが侯爵夫人だと気づくと、疑いが一気に膨らみます。

カヴァラドッシは、彼女を偶然見かけて描いただけだと説明し、トスカへの愛を伝えます。気持ちの落ち着いたトスカが最後に頼むのは、絵の女性の目を自分と同じ黒に変えること。嫉妬と愛嬌の混じったこの場面には、二人の普段の関係がよく表れています。

トスカが去ると、カヴァラドッシはアンジェロッティに、自分の別荘と庭の井戸にある隠れ場所を教えます。脱獄発覚を知らせる大砲が響き、二人は教会を離れます。そこへ、ナポレオンが敗れたという知らせを喜ぶ人々が集まります。勝利を祝う礼拝の準備が始まり、トスカも今夜の祝宴で歌うことになります。

警察長官スカルピアが部下を連れて登場します。礼拝堂に残された侯爵夫人の紋章入りの扇、画家の絵、空になった食べ物の籠。彼はこれらから、逃亡者と画家のつながりを読み取ります。そこに、恋人に会おうとトスカが戻ってきます。

スカルピアは、侯爵夫人の扇でトスカの嫉妬をあおる。

スカルピアは扇を見せ、侯爵夫人とカヴァラドッシの密会をほのめかします。扇は弟を逃がすために用意された女性用の衣装の一部ですが、トスカにはそれが分かりません。嫉妬に駆られて別荘へ向かう彼女の後を、スカルピアはスポレッタに追わせます。

教会には「テ・デウム」の荘厳な歌声が満ちていきます。その中でスカルピアが思い描くのは、画家の処刑とトスカの獲得。祈りの大合唱と、一人の男の欲望が重なったまま、第1幕は圧倒的な響きで閉じます。

第2幕|恋人の命を握る男との取引

夜のファルネーゼ宮殿。スカルピアは自室で食事をしながら捜査の報告を待っています。別室の祝宴からは、合唱とトスカの歌声が聞こえます。祝賀の音楽が続くその建物で、カヴァラドッシは捕らえられ、尋問を受けることになります。

スポレッタは別荘を捜索したものの、アンジェロッティを見つけられませんでした。その代わり、カヴァラドッシを連行してきたのです。画家は逃亡者の居場所を答えません。呼び出されたトスカにも、知っていることを話さないよう念を押します。

恋人の拷問を聞き、秘密を明かすよう迫られるトスカ。

カヴァラドッシが隣室へ連れ出されると、スカルピアはトスカに問いかけます。彼女が答えなければ、恋人の拷問が続く。扉の向こうから悲鳴が聞こえ、トスカは必死に耐えます。やがて耐えきれず、庭の井戸という隠れ場所を明かしてしまいます。

傷ついたカヴァラドッシが戻され、秘密が漏れたと知ります。そこへ新たな戦況の知らせ。ナポレオン敗北という情報は覆り、マレンゴではフランス軍が勝利したのです。カヴァラドッシは歓喜の声を上げ、スカルピアに抵抗の意思を示します。しかし、その場の力関係は変わりません。彼は処刑されることになります。

トスカは恋人の命を救おうと、スカルピアに代価を尋ねます。彼が求めるのは金ではなく、彼女自身。拒めば恋人は死ぬ。立ち去ることを許されても、カヴァラドッシの命はスカルピアの手に残ります。彼女の選択肢を奪いながら、男は答えを迫り続けます。

追い詰められたトスカは、自分の人生を振り返って神に問いかけます。芸術と愛に生き、困っている人を助け、祈りを捧げてきた。それなのに、なぜこんな苦しみを受けるのか。「歌に生き、愛に生き」は、相手を説得する駆け引きの途中に、彼女の心の奥が突然開かれるような歌です。

スポレッタが戻り、アンジェロッティは捕まる前に自殺したと報告します。カヴァラドッシの処刑準備も整っています。トスカはついにスカルピアの要求を受け入れるしぐさを示しますが、恋人の解放を強く求めます。

スカルピアは、公然と赦免することはできないので、見せかけの処刑を行うと説明します。そしてスポレッタに、以前のパルミエーリ伯爵と同じように、と意味を込めて命じます。トスカは空砲で助かる約束だと受け取ります。けれど、長官と部下の間では、別の意味を持つ合図が交わされています。

トスカはさらに、二人が国外へ逃げるための通行証を書かせます。スカルピアが机に向かう間、彼女は食卓のナイフに気づき、ひそかに手に取ります。男が書き終えて抱き寄せようとした瞬間、トスカはその胸を刺します。

スカルピアの遺体にろうそくと十字架を添え、通行証を持って去るトスカ。

スカルピアが動かなくなると、トスカは手を洗い、通行証を探して彼の手から取り上げます。立ち去ろうとして足を止め、遺体の両側にろうそくを置き、胸に十字架を載せます。恋人を救うために人を殺した直後にも、彼女の信仰はこの所作に残ります。静かな動作の積み重ねに、歌とは違う重さがあります。

第3幕|生き延びるための芝居が、最後の誤解になる

サンタンジェロ城の屋上。まだ星の残る空の下で、遠くから羊飼いの歌が聞こえ、ローマの鐘が朝を告げます。連れてこられたカヴァラドッシには、残された時間がわずかだと告げられます。彼は指輪を看守に渡し、トスカへの最後の手紙を書くことを願い出ます。

しかし書き始めると、恋人と過ごした夜の記憶がよみがえり、筆が止まります。星、土の香り、庭の扉、近づいてくる足音。これが「星は光りぬ」です。死を目前にして、思い出の一つ一つが手触りを取り戻し、生きたいという思いがむき出しになります。

通行証を見せ、恋人の救出を信じるトスカ。

そこへトスカが現れ、通行証を見せます。スカルピアを殺したこと、これからの処刑は芝居であること、二人で海を越えて逃げられること。彼女は息せき切って話します。カヴァラドッシは、自分のために恐ろしい行動に踏み切った恋人の手を取り、「おお、優しい手よ」と歌います。

トスカは銃声に合わせて倒れ、兵士が去るまで動かないよう教えます。歌手である彼女には、舞台で死を演じる経験があります。今度は恋人がその芝居をすれば、二人とも生きて城を出られる。未来を取り戻したように感じた二人は、夜明けを待ちます。

処刑隊が現れます。銃声が響き、カヴァラドッシは倒れます。トスカはその倒れ方を見事な演技だと受け取り、兵士たちが去るのをじっと見届けます。そして恋人に駆け寄り、早く起きて逃げようと促します。

恋人は動きません。空砲の約束は嘘でした。スカルピアは、本物の処刑を命じていたのです。長官がすでに死んでいても、その命令は部下によって実行されました。

同時に、スカルピア殺害が発覚し、警官たちがトスカを捕らえに戻ってきます。彼女は追手を振り切り、城壁へ走ります。最後にスカルピアとの対決を神の前へ持ち越すような言葉を叫び、身を投げます。夜明けの光の中で、恋人たちの脱出の夢は終わります。

有名曲と聴きどころ――まずは「星は光りぬ」から

最後の手紙を前に、恋人との記憶がよみがえる。

最初の一曲には、第3幕の「星は光りぬ」をおすすめします。短い曲の中に、静かな回想から抑えきれない絶望までが収まり、『トスカ』の美しさと切迫感を一度に味わえます。聴いた後は、同じ人物が第1幕で歌う「妙なる調和」へ。恋の幸福が声を満たす場面と、恋を失う寸前の場面を比べると、画家の一日が耳で見えてきます。

「星は光りぬ」|死を前に、人生がいちばん愛おしくなる

歌うのはカヴァラドッシ。クラリネットの旋律が記憶への入口を開き、声がその流れを受け継ぎます。言葉は風景から始まり、恋人の感触へ近づき、最後には生への渇望へ達します。終盤の強い声だけでなく、冒頭のつぶやくような歌い方に耳を澄ますと、思い出が現在へ変わる感覚が伝わります。

「歌に生き、愛に生き」|答えの返らない祈り

第2幕のトスカのアリア。追い立てるような会話の流れから、長く息の続く旋律へ変わり、時間が内側へ沈んでいきます。自分の人生を語る前半と、神に理由を尋ねる後半の変化が聴きどころ。高音の華やかさにも、追い詰められた人の切実な問いが宿っています。

「妙なる調和」|画家の目と、恋人の心

第1幕のカヴァラドッシの歌。金髪のモデルと黒髪のトスカの美しさを見比べながら、なだらかな旋律が広がります。そばでは堂守が小言をつぶやき、恋に浸る画家とのずれも生まれます。最後に思いがトスカへ集まるところを聴けば、後に浮気を疑われる彼の本心がよく分かります。

「テ・デウム」|祈りの大合唱に重なる欲望

第1幕の終幕。スカルピアの声に、鐘や宗教的な合唱の響きが重なり、教会の空間が音で満たされます。注目したいのは、大勢の祈りの中でも、長官の個人的な欲望が消えないこと。華麗な場面の中心に何が置かれているかを意識すると、その壮大さが不気味さへ変わります。

「おお、優しい手よ」|恋人の手に見つける愛と傷

第3幕、再会したカヴァラドッシがトスカの手を取って歌います。花を摘み、祈りを捧げてきた手が、自分のために人を殺した。その衝撃が、柔らかな愛情とともに流れます。「星は光りぬ」の孤独な声から、相手のいる歌へ変わることが、この短い再会をいっそう温かく感じさせます。

作品が面白くなる、二つの見方

扇と通行証。小さな品物が、人の運命を動かす。

① 同じ扇を見ても、分かっていることが違う

『トスカ』では、観客と登場人物が持つ情報に差があります。第1幕の扇がその代表です。観客は、侯爵夫人が弟の逃亡を助けるため衣装を用意したと知っています。一方、トスカが見るのは、恋人の仕事場に残った別の女性の持ち物。そこへスカルピアの言葉が加わると、同じ物が浮気の証拠に見えてしまいます。

カヴァラドッシが秘密を隠すのにも理由があります。彼は、敬虔なトスカが告解で話してしまう危険を考え、逃亡者について黙っています。その配慮が彼女の疑いを強め、警察に利用される。互いを大切にする行動と、相手に見えている行動の間に、悲劇の入口が開きます。

第2幕の処刑命令も同じ構造です。トスカには救済の約束に聞こえ、スカルピアとスポレッタには別の指示が通じる。台詞の内容と一緒に、視線や間を見ていると、表面の会話の下で進む事件が見えてきます。

② 歌手トスカは、最後に恋人へ「死の演技」を教える

トスカは物語の中でも歌手です。第2幕では祝宴で歌う彼女の声が、警察の尋問のすぐそばに聞こえます。華やかな仕事の世界と、現実の暴力が一つの建物に重なっています。

第3幕では、舞台の経験が恋人を助ける知恵になるはずでした。銃声がしたら倒れ、合図があるまで動かない。カヴァラドッシも、劇場でのトスカのように、とその指示を受け取ります。恋人たちは生き延びるために一つの場面を演じようとします。

そのため、倒れた恋人を見たトスカは、すぐには死を理解しません。自分の教えた通りに演技していると思って待ちます。観客には息の詰まる時間でも、彼女には脱出までの最後の準備。舞台を知る人だからこそ信じられた芝居が、真実に気づくまでの痛ましい時間を生むのです。

成立背景――ローマの街を、そのまま劇場へ

原作はフランスの劇作家ヴィクトリアン・サルドゥの戯曲『ラ・トスカ』。1887年、サラ・ベルナールを主演に初演されました。プッチーニはベルナールの舞台を見て、この題材のオペラ化に関心を持ちます。歌手が主人公で、逃亡者、警察、恋愛、殺人が一昼夜の中で絡み合う劇は、音楽によって緊張を高める格好の素材でした。

アルフォンス・ミュシャ《ラ・トスカ》(1899年)。サラ・ベルナール主演の戯曲のポスター。PD-old-80-expired/PD-Art。 出典

オペラの台本を手がけたのはルイージ・イッリカとジュゼッペ・ジャコーザ。五幕の戯曲は、教会、宮殿、城の三幕に凝縮されました。主要人物の選択に焦点が集まり、場所が移るたびに二人の逃げ道が狭くなっていきます。

プッチーニの肖像写真(A. Dupont、1908年)。米国でパブリックドメイン(PD-US)。 出典

初演は1900年1月14日、ローマのコスタンツィ劇場。指揮はレオポルド・ムニョーネ、トスカ役はハリクレア・ダルクレー、カヴァラドッシ役はエミリオ・デ・マルキ、スカルピア役はエウジェニオ・ジラルドーニでした。物語の舞台となる街で、新しいオペラが幕を開けたのです。

アドルフォ・ホーエンシュタインによる『トスカ』初版ピアノ譜の表紙(1899年、リコルディ)。PD-old-95-expired/PD-Art。 出典

物語の背後にあるのは、1800年6月のマレンゴの戦いです。ローマへ届く戦況の知らせが覆り、第1幕の祝賀と第2幕の歓喜が、それぞれ違う政治的立場から響きます。教会でナポレオンの敗北を喜ぶ人々と、宮殿でその勝利に声を上げるカヴァラドッシ。同じニュースが、誰にとっての希望なのかを示しています。

三つの舞台は、いずれもローマに実在する場所です。教会の礼拝、宮殿の祝宴、城の屋上の夜明け。それぞれに異なる音の世界があり、プッチーニは合唱や遠くの歌、鐘を物語の空間へ組み込みました。第3幕で街がいつも通り朝を迎える音は、死を待つ一人の時間を、さらに孤独に聞かせます。

初めて観るなら、約束が変わる瞬間を追ってみる

『トスカ』を初めて観るときは、恋人たちが何を約束しているかを追ってみてください。第1幕では、今夜二人で過ごす約束。第2幕では、処刑を芝居にして国外へ逃げる約束。第3幕では、倒れた後で必ず立ち上がる約束。未来へ向けた言葉が、場面ごとに切実さを増していきます。

そして、歌が始まる直前に、何が起こったのかを覚えておくと、名曲が自然に物語へつながります。美しい旋律に浸りながら、その人が今、誰を思い、何を失いそうなのかを感じる。そうすると「星は光りぬ」は、遠い悲劇の名曲から、つい先ほどまで笑っていた恋人の声へ変わります。

トスカが最後まで信じた一枚の通行証。その紙に託された明日を思うと、教会での少しわがままな恋人同士の時間さえ、かけがえのないものとして胸に残ります。

参考資料と画像の出典

スカラ座『トスカ』原語台本(ローマ1900年版の校訂箇所を含む) — 人物・場面順序・曲の歌い出し・処刑命令・終幕。本文は通常上演で共通する筋を採用。

Librettidopera.it『トスカ』原語台本 第1〜3幕 — 通常上演の台詞と所作、扇・隠れ場所・通行証・処刑の照合。

Centro Studi Giacomo Puccini:Tosca — 台本作者・初演日・初演出演者・声種・楽譜の出版情報。

Puccini Museum:Tosca — 1889年のベルナール主演戯曲の観劇とオペラ化の経緯。

Giacomo Puccini — Catalog of the Works:Tosca, Notes — サルドゥの原作、1887年の戯曲初演とオペラ成立背景。

新国立劇場『トスカ』2024年公演 — 上演時間実例:第1幕50分、第2幕45分、第3幕30分、休憩各25分。

ミュシャの戯曲ラ・トスカのポスター — アルフォンス・ミュシャ《ラ・トスカ》(1899年)。サラ・ベルナール主演の戯曲のポスター。PD-old-80-expired/PD-Art。

プッチーニの肖像写真 — プッチーニの肖像写真(A. Dupont、1908年)。米国でパブリックドメイン(PD-US)。

トスカ初版ピアノ譜の表紙 — アドルフォ・ホーエンシュタインによる『トスカ』初版ピアノ譜の表紙(1899年、リコルディ)。PD-old-95-expired/PD-Art。

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