ヨハン・シュトラウス2世《こうもり》のあらすじ・聴きどころを解説|仮面の妻と、シャンパンの夜

刑務所へ行くはずの夫が、舞踏会で妻を口説く?

懐中時計と仮面。舞踏会の駆け引きを象徴する小道具。

刑務所へ向かったはずの夫が、舞踏会で見知らぬ美女を口説いている。その美女の正体は、仮面をつけた自分の妻。夫は得意の懐中時計で気を引こうとしますが、妻には別の使い道がありました。

ヨハン・シュトラウス2世の《こうもり》は、一晩の嘘と変装が翌朝まとめて暴かれる、全3幕のオペレッタです。軽やかな笑いの底には、夫婦の駆け引き、使用人の野心、友人同士の仕返しが隠れています。ワルツに身を任せているうちに、舞踏会の客も観客も、いたずらの仕掛け人にすっかり乗せられてしまいます。

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1分あらすじ / 登場人物 / 詳しい物語 / 聴きどころ / 成立背景

作曲ヨハン・シュトラウス2世(1825–1899)
台本カール・ハフナー/リヒャルト・ジュネ
原作メイヤックとアレヴィの喜劇《Le Réveillon》
初演1874年4月5日/ウィーン、アン・デア・ウィーン劇場
言語・構成ドイツ語/全3幕のオペレッタ(台詞あり)
舞台19世紀後半、大都市近郊の保養地(一般にウィーン近郊として上演)
演奏・上演時間作品の目安約2時間20分。台詞・休憩込みは約3時間前後。新国立劇場2023年公演は約3時間5分。

1分でわかるあらすじ

裕福なアイゼンシュタインは、刑務所へ行くと妻ロザリンデに告げながら、友人ファルケに誘われて舞踏会へ出かけます。留守宅では、妻の昔の恋人アルフレードが夫と間違われて逮捕されてしまいます。舞踏会には女優を装った女中アデーレ、貴族を名乗る刑務所長、そしてハンガリーの伯爵夫人に変装したロザリンデも集まります。妻と気づかず口説く夫から、ロザリンデは懐中時計を手に入れます。翌朝、妻の浮気を疑う夫にその時計を突きつけると、立場は逆転。ファルケは、昔こうもりの仮装姿で恥をかかされた仕返しだったと明かします。夫婦は和解し、皆は騒動をシャンパンのせいにして歌い納めます。

登場人物と相関図|本名と舞踏会での名前を分けて覚える

本名・偽名と、物語を動かす主要な関係。画像を押すと拡大できます。

中心にいるのは、アイゼンシュタインとロザリンデの夫婦です。その周りでファルケが人を動かし、女中アデーレと刑務所長フランクまで、普段とは違う身分で舞踏会に参加します。アルフレードだけは、夫の身代わりになって刑務所へ向かう役回りです。

人物役割舞踏会での姿
アイゼンシュタインロザリンデの夫ルナール侯爵
ロザリンデ夫の嘘を知る妻/ソプラノ仮面のハンガリー伯爵夫人
ファルケ夫の友人・公証人/バリトン騒動の仕掛け人
アデーレ夫妻の女中/ソプラノ女優オルガ
アルフレード妻の昔の恋人/テノール宴に行かず、夫の身代わりで拘留
オルロフスキーロシアの公爵/メゾソプラノ宴の主催者
フランク刑務所長/バリトンシャグラン騎士

アイゼンシュタインはテノールにもバリトンにも歌われる役です。オルロフスキーは男性の公爵ですが、通常はメゾソプラノの歌手が演じます。

ほかに、アデーレの姉妹で舞踏会への橋渡しになるイーダ、アイゼンシュタインの弁護士ブリント、刑務所の看守フロッシュが登場します。

詳しいあらすじ|一晩の嘘が、翌朝ひとつにつながる

第1幕:夫は舞踏会へ、昔の恋人は刑務所へ

舞台は19世紀後半、大都市近郊の保養地。アイゼンシュタイン家では、女中アデーレが一通の手紙を読んでいます。姉妹のイーダから、オルロフスキー公爵の宴へ誘われたと思い、病気の叔母を見舞いたいという口実で休みを願い出るのです。

女主人ロザリンデにも、落ち着かない理由がありました。昔の恋人で歌手のアルフレードが、家の外から歌いかけてきます。夫がいる家で会うわけにはいかず、彼を帰そうとしますが、アルフレードは諦めません。

そこへアイゼンシュタインが、弁護士ブリントと口論しながら戻ってきます。役人への侮辱で科された5日間の拘留が、弁護士のまずい弁護によって8日間に延びてしまったのでした。今夜から刑務所へ入る夫を見送るため、ロザリンデは最初、アデーレの外出を認めません。

友人のファルケが訪ねてくると、話は別の方向へ進みます。今夜は公爵の豪華な宴がある。刑務所には明朝行けばよいから、一緒に楽しもうという誘いです。しかも偽名で参加するので、堅苦しい立場を忘れて遊べる。アイゼンシュタインはすっかりその気になります。

刑務所へ行くふりをして、ファルケと宴へ向かう夫。

ファルケには、夫にまだ明かしていない計画がありました。かつて仮装舞踏会の帰り、酔いつぶれたファルケは、こうもりの衣装のまま置き去りにされたことがあります。翌朝、その姿で帰宅して人々に笑われ、「こうもり博士」と呼ばれるようになりました。今夜の宴は、その仕返しの舞台なのです。

アイゼンシュタインは刑務所へ行くふりをし、よそ行きの服で出発します。アデーレも外出を許され、ロザリンデも夫との別れを悲しむ形を整えます。別れの三重唱では、表向きのしんみりした歌と、その裏にある浮き立つ気分が並びます。誰もが真面目な顔で、自分に都合のよい夜を待っています。

夫が出ていくと、アルフレードが家に入り、夫の部屋着を身につけて食事と酒を楽しみ始めます。ロザリンデは帰ってほしいのに、彼は歌い続けるばかり。「変えられないことを忘れられる人は幸せ」という歌が、この厄介な状況を気楽な酒宴に変えてしまいます。

刑務所長フランクが、刑を執行するために到着します。妻と食卓を囲み、夫の部屋着を着た男性がいる。フランクは当然、その男性をアイゼンシュタインだと考えます。

夫の部屋着を着たアルフレードが、夫と間違われる。

ここでアルフレードが本名を名乗れば、夫の留守中に昔の恋人を家へ招いたことが露見します。ロザリンデは評判を守るため、彼に夫の身代わりになってもらいます。アルフレードはその役を引き受けて連行され、フランクも仕事を終えると公爵の宴へ。夫が避けた刑務所に別の男が入り、関係者は舞踏会へ集まっていきます。

第2幕:女中は女優に、妻は伯爵夫人に

オルロフスキー公爵の屋敷には、招かれた人々が集まっています。公爵は若く裕福ですが、どんな娯楽にも退屈ぎみ。ファルケは、今夜は面白い見世物があると約束します。その題名は「こうもりの復讐」。見世物の主役であるアイゼンシュタインだけが、それを知りません。

アデーレはロザリンデのドレスを着て、女優の「オルガ」として紹介されます。ところがイーダは、妹を誘った覚えがないと言います。アデーレをここへ呼び寄せた手紙にも、誰かの仕掛けがあったことが見えてきます。

「ルナール侯爵」として現れたアイゼンシュタインは、アデーレを見て家の女中そっくりだと指摘します。見破られそうになったアデーレは、慌てて逃げたりしません。このような手や足、身のこなしの女性が女中に見えるのかと、侯爵の判断を笑ってみせます。

アデーレは笑いの歌で、主人の指摘をはね返す。

ここで歌うのが、有名な「侯爵様、あなたのようなお方は」です。ころころ転がる笑い声と高い音のきらめきで、場の空気を自分の味方につける。客たちに笑われたアイゼンシュタインは、確信していたはずの見立てを引っ込めるしかありません。

刑務所長フランクも「シャグラン騎士」という偽名で到着します。アイゼンシュタインとフランクは互いをフランスの貴族だと思い込み、不得意なフランス語で取り繕いながら意気投合します。本来なら、刑務所で迎える側と迎えられる側の二人です。

ロザリンデもファルケに誘われ、仮面をつけたハンガリーの伯爵夫人として現れます。夫が刑務所へ行かず、宴で遊んでいることを知った彼女は、正体を隠してその様子を見届けます。

アイゼンシュタインは、目の前の女性が妻とは気づかず、今度はこの伯爵夫人に近づきます。手には、女性の気を引くために持ち歩いている懐中時計。ロザリンデは相手に調子を合わせ、時計を手に入れることに成功します。夫にとっては口説くための小道具でしたが、妻にとっては、嘘を証明する現物になりました。

変装した妻は、夫の懐中時計を手に入れる。

本当にハンガリー人なのかと問われたロザリンデは、「故郷の響き」を歌います。しっとりとした郷愁の歌から、速い踊りへ。堂々と歌い切ることで、疑いの目を向けた人々を納得させてしまいます。

アイゼンシュタインは、ファルケをこうもり姿で置き去りにした昔のいたずらまで、客たちに得意げに語ります。ファルケがどんな仕返しを準備しているかも知らず、自分からその理由を披露しているのです。

宴はシャンパンをたたえる大合唱へ進み、続いて人々は互いを兄弟姉妹と呼び、親しく語りかけます。「兄弟よ、姉妹よ」の柔らかな旋律では、騒がしい宴がひととき温かな共同体のように聞こえます。そこからワルツへ移ると、夜の勢いが再び戻ってきます。

朝6時を告げる時計の音で、アイゼンシュタインとフランクは我に返ります。一人は刑務所へ入るため、もう一人は刑務所の仕事へ戻るために、慌てて宴を後にします。

第3幕:妻を責めた夫に、時計が返ってくる

翌朝の刑務所。看守フロッシュは、独房から聞こえるアルフレードの歌に振り回されています。そこへ、まだ昨夜の酒が残るフランクが戻ります。アデーレとイーダも訪ねてきました。アデーレはフランクを舞台関係の有力者だと考え、女優になるための援助を求めるのです。

「田舎娘を演じるなら」では、アデーレがいくつもの役柄を次々と演じ分けます。宴で貴婦人らしく振る舞っただけで満足せず、その成功を本当の仕事につなげようとする場面です。

アイゼンシュタインが到着すると、昨夜の親しい「騎士」が刑務所長だと判明します。ところがフランクは、アイゼンシュタインなら昨夜すでに連れてきたと言い張ります。本人が出頭したのに、本人の名前で別の男が拘留されている。しかもその男は、妻と食卓を囲んでいたというのです。

夫の驚きは、たちまち嫉妬と怒りへ変わります。呼び出されて来た弁護士ブリントの衣装やかつら、眼鏡を使い、自分が弁護士に変装して事情を聞くことにします。舞踏会では妻を見抜けなかった夫が、今度は自分の変装で妻の秘密を探ろうとするのです。

アルフレードと、彼を解放してもらうために来たロザリンデは、変装した夫を相手に事情を説明します。穏やかに聞いているはずの弁護士が、妙に腹を立てて口を挟む。三人の歌が重なるうち、アイゼンシュタインは怒りを抑えきれず、正体を明かして二人を責め立てます。

ロザリンデは、昨夜手に入れた懐中時計を差し出します。刑務所へ行くと嘘をつき、別の女性を口説いていたのは誰か。その女性が自分の妻だったとわかり、アイゼンシュタインは言い返せなくなります。

翌朝、ロザリンデは時計を証拠に夫を問い詰める。

ファルケと公爵、宴の客たちが現れ、騒動は「こうもりの復讐」だったと明かされます。皆は役を演じていたと説明し、アイゼンシュタインは安心して妻に和解を求めます。アルフレードは、その説明がすべて本当ではないことを公爵にそっと伝えますが、夫には知らせません。

女優を目指すアデーレには、公爵が芸術の後援者として支援を申し出ます。アイゼンシュタインは自分の振る舞いをシャンパンのせいにして妻へ許しを請い、ロザリンデも歌に加わります。最後は一同が、シャンパンをたたえる合唱で騒動を収めます。

有名曲と聴きどころ|最初はアデーレの笑い声から

ワルツが響く、華やかな舞踏会のイメージ。

最初に1曲だけ聴くなら、第2幕のアデーレの「侯爵様、あなたのようなお方は」がおすすめです。歌詞を全部追えなくても、相手を笑い飛ばして場を支配する様子が、声と音楽から伝わります。続いて序曲を聴くと、歌劇場の幕が開く前から作品の華やかさを味わえます。

序曲:せわしない事件と、気持ちよいワルツ

鋭い勢いのある始まり、駆け回るような音型、伸びやかなワルツ。短い時間に性格の違う音楽が現れ、《こうもり》の慌ただしさと楽しさを先に紹介します。ワルツの旋律だけを聴いても心地よいのですが、その前後の切り替わりに耳を向けると、舞台の騒動まで想像しやすくなります。

アデーレ「侯爵様、あなたのようなお方は」:笑いも歌の技術になる

軽快な伴奏の上で、笑い声が細かな音へ変わります。高音が出ることだけでなく、言葉が明瞭で、笑いが自然に聞こえることがこの曲の魅力です。歌手が客席へ向ける表情や、アイゼンシュタインへの視線まで見ると、なぜ彼女がその場をひっくり返せるのかがわかります。

歌唱の聴き比べでは、細かな音を上手に歌うかだけでなく、言葉と笑いの意味が伝わるかに注目してみてください。女中だと気づかれた危機を、機転と演技で乗り切る人物の歌だからです。

ロザリンデ「故郷の響き」:ゆっくりした歌から、踊りへ

前半は故郷を懐かしむ、長く息の流れる歌。後半は速く弾むチャールダーシュへ変わります。同じ人物が、しみじみとした響きと鮮やかな躍動を切り替えるところが聴きどころです。

ロザリンデは、ただ美しい歌を披露しているのではありません。自分がハンガリーの伯爵夫人だと客たちに信じさせるために歌っています。最後の勢いが増すほど、彼女がその場を掌握していくように聞こえます。

オルロフスキー「私は喜んで客を招く」:歓迎しているのに、妙に冷たい

公爵は、客を招いて楽しませる自分の流儀を歌います。ところが、歌い方には威圧的な調子や気まぐれな強さも混じります。楽しむことを命じられる宴という、少し奇妙な空気を作る曲です。

男性役をメゾソプラノが歌うことで、夫やアルフレードの声とは違う存在感が生まれます。華やかな宴の中心に、楽しませる側ではなく、楽しませてもらうことに飽きた人物がいる。この温度差を聞いてみると、公爵の面白さが増します。

「兄弟よ、姉妹よ」:大騒ぎの中にある、柔らかな時間

第2幕終盤、ファルケの呼びかけから始まり、人々が互いを親しい仲間として受け入れる歌です。穏やかな旋律が声から声へ広がり、合唱に包まれていきます。

この場面では、誰が最も大きな声を出すかより、声がどう溶け合うかを聴いてみてください。身分や偽名で取り繕ってきた人々が、一緒に歌う間だけ同じ輪に入る。その心地よさが、後に続くワルツの熱気をいっそう引き立てます。

アデーレ「田舎娘を演じるなら」:一人で何役も見せる

第3幕で、アデーレが女優としての資質を売り込みます。役柄に合わせて声や表情、音楽の調子が変わるので、短い芝居を続けて見るような曲です。

第2幕のアリアでは、自分の正体を隠すために演じました。ここでは演技を将来の仕事にしようとします。二つの曲を続けて聴くと、アデーレが単なる賑やかしではなく、目標を持って動く人物だと感じられます。

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仮面が外すのは、顔よりも「普段の立場」

ドレスをまとえば、いつもの立場も変わる。

女中が貴婦人に見える夜

アデーレの正体を、アイゼンシュタインは一度は見抜きます。それでも彼女が上品に振る舞い、周囲の客が彼を笑うと、判断を曲げてしまう。普段なら主人の側にある力が、舞踏会では使用人の側へ移ります。

アデーレのドレス、名乗り、立ち居振る舞い、それを受け入れる周囲の反応が、彼女の見え方を変えます。アデーレは役を演じる能力を足掛かりに、舞台へ進もうとする姿も見えてきます。

またフランクも同じように、刑務所長という仕事を隠して貴族の仲間に入ります。

「シャンパンのせい」が、和解の口実になる

夫の嘘も、妻の隠し事も、友人の仕返しも、最後にはシャンパンのせいにされます。責任を整理して解決するより、皆で同じ歌に加わって騒動を収める。そこには、都合の悪いことを笑いで包む《こうもり》らしい決着があります。

ただ、アルフレードは、本当にロザリンデを訪ね、夫の身代わりになりました。「すべて芝居だった」という説明には、夫を安心させるための取り繕いも含まれています。誰が何を知り、何を知らないまま終わるかまで見ると、最後の笑いには少し違った味が残ります。

ワルツや合唱の明るさを、そのまま幸福感として楽しむこともできます。登場人物が気まずさを乗り切るための勢いとして聴くこともできるでしょう。華やかな音楽があるからこそ、この曖昧な和解が説教臭くならず、舞台の楽しさとして届きます。

ワルツ王が描いた、踊る人々の喜劇

ヨハン・シュトラウス2世は、《美しく青きドナウ》などの舞曲で知られるウィーンの作曲家です。《こうもり》では、その踊りの音楽が、登場人物の会話や嘘、欲望と結びつきます。

ヨハン・シュトラウス2世。Fritz Luckhardt撮影/Adam Cuerden修復。パブリックドメイン。 出典:Wikimedia Commons

台本のもとになったのは、アンリ・メイヤックとリュドヴィク・アレヴィのフランス喜劇《Le Réveillon》です。カール・ハフナーとリヒャルト・ジュネがドイツ語の舞台へ作り替え、シュトラウスが音楽をつけました。フランスの喜劇に由来する取り違えと変装が、ウィーンの宴と舞曲に重なった作品です。

初演は1874年4月5日、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場。作曲者自身が指揮し、ロザリンデ役には、劇場の運営にも携わっていたマリー・ガイスティンガーが出演しました。歌唱だけでなく、話し言葉や演技で観客を楽しませる力が、作品の成り立ちから重要だったことがうかがえます。

初演直後の風刺画(1874年4月12日)。László von Frecskay作、雑誌『Die Bombe』掲載。パブリックドメイン。 出典:Wikimedia Commons

初演直後の風刺画を見ると、シュトラウスと舞台の人物が同じ紙面で賑やかに描かれています。1874年4月12日付の雑誌『Die Bombe』掲載で、描いたのはラースロー・フォン・フレチュカイ。作品が生まれた時代の観客の反応を伝える貴重な資料です。

オルロフスキーを演じるアンナ・ウルケ(1875年)。Rudolf Krziwanek撮影/Wien Museum所蔵。CC0 1.0。 出典:Wikimedia Commons

こちらは、1875年にオルロフスキーを演じたアンナ・ウルケの写真です。男性の公爵を女性歌手が演じる配役を、初演に近い時代の衣装で見ることができます。メゾソプラノの独特な響きと男装の組み合わせは、宴の主人に、ほかの男性たちとは違う輪郭を与えます。

オペレッタは、歌と管弦楽に、話す台詞を交えて進む音楽劇です。《こうもり》でも、台詞の間合いやフロッシュの喜劇性は大切な部分。歌の名演を聴く楽しみと、芝居の応酬を見る楽しみの両方が、この作品には欠かせません。

今日では、年末年始の華やかな演目としても親しまれています。公演によって台詞や笑いの入れ方に違いが出るので、同じ作品でも舞台の印象は変わります。まず物語の骨組みを覚えておけば、その公演らしい演技や演出も追いやすくなるはずです。

初めて観るなら、時計と「誰が知っているか」を追う

人物名が多く感じられたら、まず「夫は妻の正体を知らない」「妻は夫の正体を知っている」「ファルケは仕掛けを知っている」という3点を押さえてください。観客は夫より事情を知っているので、彼が自信満々に振る舞うほど、その先の失敗を楽しめます。

もう一つの目印は、懐中時計です。夫が舞踏会へ持ち込み、妻が受け取り、翌朝に見せる。その移動を追うだけで、夫婦の力関係が変わる瞬間を見失いません。

第2幕では、同じ人が別の名前を名乗っているだけだとわかれば、宴の賑わいに身を任せて大丈夫です。アデーレの笑い声、ロザリンデのチャールダーシュ、皆で歌う穏やかな旋律とワルツ。夫の時計が最後にどんな証拠になるかを覚えたら、あとはこの一晩の音楽を楽しんでください。

参考資料・画像の出典

[1] 原語台本(Operone)

[2] TextGrid:リヒャルト・ジュネ《こうもり》

[3] ウィーン交響楽団:作品情報

[4] 新国立劇場:2023年《こうもり》

[5] アン・デア・ウィーン劇場:作品案内

[6] バイエルン国立歌劇場:作品案内

[7] ドレスデン国立オペレッタ劇場:プログラム

[8] IMSLP:総譜・ヴォーカルスコア

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