
速い音楽に胸が高鳴る。静かな音楽なのに、先へ進む力を感じる。ベートーヴェンの《交響曲第7番》では、そんな感覚が全4楽章を通して続きます。
鍵になるのは、短いリズムの繰り返しです。弾む動き、一定の足取り、跳ねるような身軽さ。楽章ごとに違う運動が生まれ、最後にはオーケストラ全体を巻き込む熱狂へと達します。
後にワーグナーが「舞踏の聖化」と評したこの交響曲は、身体に働きかけるような力と、緻密な作りを備えています。旋律の下にある動きへ耳を向けると、約40分の音楽が、どのように勢いを蓄えていくのかが見えてきます。
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1分でわかる / 成立背景 / 初演のエピソード / 4楽章の解説 / まず聴きたい場面 / 深く楽しむ視点
1分でわかる、ベートーヴェン《交響曲第7番》
《交響曲第7番》は1811〜1812年に作曲され、1813年にウィーンで初演されました。魅力は、一定のリズムを保ちながら、旋律や音色、響きの厚さを変えていく手法にあります。
第1楽章は長い序奏から軽快な主部へ進み、第2楽章では低い弦楽器の音型に、次々と新しい声が重なります。第3楽章は速い主部とゆったりした中間部の対照を楽しむ音楽。第4楽章では、鋭いアクセントと激しい反復が、全曲を力強く締めくくります。
《交響曲第7番》の基本情報
| 作曲者 | ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン |
|---|---|
| 作品名 | 交響曲第7番 イ長調 作品92 |
| 原題 | Symphonie Nr. 7 A-Dur, op. 92 |
| 作曲 | 1811〜1812年 |
| 初演 | 1813年12月8日、ウィーン大学講堂 |
| 初演指揮 | ベートーヴェン |
| 献呈 | モーリッツ・フォン・フリース伯爵 |
| 出版 | 1816年、ウィーンのシュタイナー社 |
| 構成 | 全4楽章 |
| 編成 | フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット各2、ティンパニ、弦楽5部 |
| 演奏時間 | 約35〜45分 |

第5番や第9番で使われるトロンボーンはなく、木管楽器は各2本を基本とする編成です。独奏の軽やかさと、全体で鳴らす力強さの幅が大きく、その切り替えも聴きどころになります。
《運命》《田園》から数年後、新しい交響曲へ

1808年に第5番《運命》と第6番《田園》を初演した後、ベートーヴェンはしばらく新作交響曲の発表から遠ざかります。その間にも、ピアノ協奏曲第5番《皇帝》、ピアノ・ソナタ《告別》、ピアノ三重奏曲《大公》などの創作は続いていました。
第7番の本格的な作曲は1811年に進み、翌1812年にはまとまります。自筆譜にある「1812年4月13日」という日付は、おそらく総譜の書き上げに関わるものと考えられています。その後は第8番にも取り組み、二つの新しい交響曲が続けて形になりました。

この頃には難聴が進行していました。それでも第7番には、木管が伸びやかに歌い、ホルンが力強く響く、開放的な場面が数多くあります。
当初は、グラーツのウルスラ会を支援する慈善演奏会で披露する計画がありましたが、実現しませんでした。1813年4月21日には、ウィーンのルドルフ大公の居室で、第8番とともに私的な試演が行われています。一般の聴衆に向けた初演は、同年12月まで待つことになります。
傷病兵のための初演と、身体全体で振ったベートーヴェン
1813年12月8日、ウィーン大学講堂で開かれたのは、ハーナウの戦いで負傷したオーストリアとバイエルンの兵士を支援する慈善演奏会でした。ナポレオン戦争の続く中、音楽家たちもこの催しに協力します。

公演を組織したのは、機械仕掛けの楽器などを手がけていたメルツェルです。プログラムには第7番に加え、行進曲や、戦闘の様子を描くベートーヴェンの新作《ウェリントンの勝利》が並びました。
参加者には、著名なヴァイオリン奏者で作曲家のシュポーア、コントラバスの名手ドラゴネッティらがいました。《ウェリントンの勝利》では、フンメル、マイアベーア、モシェレスらも打楽器などに加わっています。
指揮はベートーヴェン自身です。シュポーアは後に、その独特な姿を回想しました。急に音を強める箇所では、胸の前で組んでいた腕を勢いよく開く。弱い音では身をかがめ、音楽が強まるにつれて身体を起こしていく。音の強弱を、大きな身振りで奏者に伝えていたのです。

初演は成功し、第2楽章はアンコールされました。公演は同月12日にも行われ、作品は早くから支持を集めます。第2楽章はその後、単独でも演奏されるほどの人気を保ちました。
全4楽章をたどる|弾む、歩む、跳ねる、駆け抜ける
以下の言葉は、音楽の動きをつかむための鑑賞上の目安です。ベートーヴェンが各楽章に付けた標題ではありません。

第1楽章|長い序奏から、弾むリズムが生まれる
ポーコ・ソステヌート〜ヴィヴァーチェ/イ長調
オーケストラの力強い和音を合図に、ゆったりした音楽が始まります。木管の柔らかな旋律と、弦楽器を中心とする上向きの音階が交替し、響きの色合いを変えながら長い序奏を形作ります。
速い主部へ移る直前には、音楽の材料が「ミ」の音の反復へと絞られます。同じ高さの音が楽器の間で受け渡され、その中から弾むリズムが現れる。フルートが主題を奏でると、序奏とは違う軽快な流れに入ったことがわかります。
ここからは8分の6拍子です。六つの細かな拍が三つずつにまとまり、大きくは二拍子のように感じられます。長短の差がある付点リズムが、主題に独特の弾みを与えています。
主部の骨格はソナタ形式です。主題を示す部分、その材料を動かして変化させる部分、主題が戻ってくる部分という流れを持ちます。旋律や響きが変わる間も、特徴的なリズムが繰り返されるので、音楽の勢いが途切れにくくなっています。
終わり近くでは、低い弦楽器が短い音型を何度も繰り返します。その反復の上で、他の楽器が響きを強めていくため、すぐには解けない緊張が生まれます。最後の力強い締めくくりに向け、低音が何を続けているかに耳を向けてみてください。
第2楽章|静かな歩みに、旋律が重なっていく
アレグレット/イ短調

木管の暗い和音が、第1楽章の明るさを遮ります。その後、ヴィオラとチェロが控えめな音型を奏で始めます。
リズムを言葉にすると、「ター・タタ・ター・ター」。長い音一つ、短い音二つ、長い音二つの組み合わせです。冒頭では旋律の起伏が小さく、音の長短がよく耳に残ります。
繰り返しの中で、その上に別の旋律が加わります。音楽はヴァイオリンの高い音域へ広がり、響きも次第に厚くなっていきます。低い音域から少しずつ積み上がるため、大きな合奏に達したときにも、冒頭の静かな歩みとのつながりを感じられます。

途中にはイ長調の柔らかな部分があり、木管の歌によって響きが明るくなります。短調の主題が戻ると、複数の声部が時間差で同じ主題を追いかける「フガート」も現れます。一つの主題が別の声と重なることで、音楽の密度が増す場面です。
終わりには、厚かった響きが薄くなり、音型も短く分かれます。冒頭と同じように木管の和音が残り、楽章は静かに閉じられます。
行進や葬送を思わせる音楽ですが、楽章名は「葬送行進曲」ではありません。速度指定は「アレグレット」で、一般にアレグロより落ち着いた速さを示します。ここでも陰りのある響きの中に、一定の歩みが保たれています。
第3楽章|速さの対照と、終わり際のいたずら
プレスト/ヘ長調
短い音型が跳ねるように飛び出し、速い三拍子の音楽が始まります。急な強弱の変化や、予想した場所からずれるアクセントが、落ち着いて拍を数える感覚を揺さぶります。
この活発な主部と対照を作るのが、「トリオ」と呼ばれる中間部分です。ここではニ長調へ移り、速度もぐっと落ちます。長く保たれる音の上に旋律が広がり、それまでの細かな動きから、大きく息を取るような音楽へ変わります。トリオは中間部分の呼び名で、三人だけで演奏するという意味ではありません。
全体の順序は「主部―トリオ―主部―トリオ―主部」です。ゆったりしたトリオが二度現れることで、速い音楽に戻った瞬間の身軽さも際立ちます。
最後には、もう一度トリオに入りそうな気配を見せます。「また、あのゆったりした音楽が来る」と思わせたところで、短い強奏によって楽章を閉じます。
第4楽章|アクセントが生む、前への勢い
アレグロ・コン・ブリオ/イ長調
強烈な合奏と休止を経て、弦楽器の速い動きが走り出します。「コン・ブリオ」は、生き生きと、活気を持って、という意味です。
注目したいのは、強い音が置かれる位置です。拍の頭に続く位置にも鋭いアクセントが加わるので、規則的な拍と、実際に強く聴こえる音との間にずれが生まれます。速さだけでなく、この引っかかりが、音楽を前へ押し出す力になります。
主題が戻ってきても、音楽は大きく休もうとしません。弦楽器の細かな運動に、管楽器の強い響きやティンパニの打撃が重なり、緊張を保ち続けます。
終結部、つまりコーダでは、低音の反復を足場にして、さらに響きが強まります。強弱記号は「フォルティッシッシモ(fff)」にまで達します。強い音を示すフォルテを三つ重ねた指定です。すでに激しかった音楽が、最後にもう一段階、力を増して全曲を閉じます。
最初の鑑賞で注目したい、三つの場面

全曲を通して聴くときは、次の三か所をポイントにしてはいかがでしょうか。
第1楽章の序奏から主部への移行。 旋律が始まる前に、リズムが形になる過程を聴きます。
第2楽章の最初の盛り上がり。 同じ音型の上に、どの高さから新しい声が加わるかを追います。
第3楽章の最後。 トリオが再開しそうな瞬間と、実際の終わり方を聴き比べます。
終楽章では、細かな分析をいったん離れ、最後まで続く勢いを味わう聴き方もよいでしょう。
第7番を深く楽しむ、二つの視点

「舞踏の聖化」は、静かな第2楽章にも通じる

ワーグナーによる「舞踏の聖化」という評言は、「舞踏の神格化」などとも訳されます。身体の動きを感じさせる音楽が、交響曲の中で高められている、と捉えた言葉です。この評言を手がかりに全曲を聴くと、静かな第2楽章も、一連の運動の中で捉えやすくなります。
第2楽章では、旋律が重なり、明るい部分に移っても、拍の感覚が音楽をつないでいます。楽章の性格は違っても、持続する運動が表情を作る点では、他の楽章と共通しています。
農民の祭りや祝宴などと評論されることもありますが、作曲者が指定した物語ではありません。まずは、揺れる、歩む、跳ねるといった、自分の身体に生まれる感覚から聴いてみてください。
長い序奏は、全曲の響きを先取りしている
第1楽章の序奏には、もう一つ役割があります。主部を待つ間に、全曲で重要になる響きを、早くも聴かせていることです。
作品全体の中心はイ長調ですが、序奏はそこにとどまらず、ハ長調やヘ長調にも進みます。ヘ長調は、後に第3楽章の中心となる調です。最初の楽章の入口で触れた響きが、全曲の途中で大きな居場所を持つことになります。
第7番の統一感を支えているのは、それぞれの楽章で目立つリズムと、こうした全曲を横断する響きの関係です。
熱狂を生んだ反復が、批判の理由にもなった
早くから人気を得た第7番にも、否定的な反応はありました。1827年のある批評は、作品の長さ、繰り返しの多さ、過剰に感じられた音の大きさを非難しています。
今日なら力強い推進力と感じられる部分が、別の聴き手には、長すぎる反復や強すぎる刺激として届いたのでしょう。批判された点が、この作品の魅力として語られる特徴と重なるのは興味深いところです。
次に聴くときは、同じ形が戻った瞬間に、「何が加わったか」「何が変わったか」を一つ探してみてください。繰り返すたびに音楽がどう進むのかがわかると、第7番の熱狂を、より細やかに楽しめるようになるでしょう。
楽譜でも、リズムと声の重なりを確かめる

参考資料・画像出典
Eastman School of Music:Symphony No. 7 in A, Op. 92
各楽章の分析、成立と受容。
Beethoven-Haus Bonn:Sinfonie Nr. 7(ドイツ語版)
成立、自筆譜の日付、初演計画、献呈。
Berliner Philharmoniker:Symphony No. 7 in A major, op. 92
演奏時間、1827年の批評。
東京都交響楽団:プロムナードコンサートNo.407、寺西基之による作品解説
リズム、楽章構成、編成。
Beethoven Music Research Center:Opus 092
出版、編成、献呈。
Boston Baroque:Beethoven’s Symphony No. 7、Martin Pearlman
初演の背景、参加者、シュポーアの回想。
The Cleveland Orchestra:Beethoven Symphony No. 7、Hugh Macdonald
音色、低音の反復、第2楽章の受容。
Nashville Symphony:Symphony No. 7 in A major, Op. 92、Thomas May
ワーグナーの評言、反復と響きの変化。
Portobello Orchestra:Beethoven Symphony No. 7、Duncan Gillies
各楽章の流れ、第3楽章の結末。
Ignaz Moscheles’ Concert Life:8 December 1813
初演プログラム、参加者、再演。
Beethoven-Haus Bonn:Sinfonie Nr. 8
第7番との成立上の関係、1813年4月の私的試演。
Boston Symphony Orchestra:Symphony No. 7
序奏と全曲の調性の関係。
歴史資料画像の作者・年代・利用条件は、各画像の下に記載しています。「イメージ」と表示した画像は創作です。


