ヴェルディ《オテロ》あらすじ・聴きどころを解説|英雄はなぜ、愛する妻を疑ったのか

ヴェルディ《オテロ》とは

嵐のあとのキプロス島の港を思わせる海辺の城壁と船

激しい嵐を切り抜けた将軍オテロが、キプロス島の人々に戦いの勝利を告げます。夜が静まると、妻デズデーモナと二人きりになり、愛が育った日々を語り合います。

ところが、部下イアーゴのほのめかしをきっかけに、オテロは妻を疑い始めます。妻の善意の取りなしも、かつて贈ったハンカチも、やがて裏切りのしるしに見えてくるのです。

ヴェルディのオペラ《オテロ》は、シェイクスピアの悲劇『オセロ』をもとにした全4幕の作品です。忠実な部下を装う男が、どのように夫婦の信頼を壊していくのか。音楽が会話の調子や心の揺れまで映し出す、緊迫した心理劇です。

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基本情報

項目内容
作品名《オテロ》Otello
作曲ジュゼッペ・ヴェルディ
台本アッリーゴ・ボーイト
原作ウィリアム・シェイクスピア『オセロ』
初演1887年2月5日、ミラノ・スカラ座
言語・構成イタリア語、全4幕
物語の舞台15世紀末、キプロス島の港町
演奏時間約2時間20分
休憩を含む時間約2時間45分〜3時間程度

1分でわかるあらすじ

戦勝を収めた将軍オテロは、妻デズデーモナとの愛を喜んでいます。ところが、昇進を逃して彼を恨む旗手イアーゴが、夫婦を引き裂こうと動きます。

イアーゴは将校カッシオを酒席の騒動で失脚させ、デズデーモナに復職の取りなしを頼むよう勧めます。彼女の善意を不倫のしるしと思わせ、さらに夫から贈られたハンカチをカッシオの手に渡らせることで、オテロに裏切りを確信させます。

妻の弁明を退けたオテロは、寝室で彼女を窒息させます。侍女エミーリアらが陰謀を暴いたときには、デズデーモナはすでに息絶えていました。妻の無実を知ったオテロは自らを刺し、最後の口づけを求めながら亡くなります。

登場人物と関係

夫婦のオテロとデズデーモナ。イアーゴはオテロに疑いを吹き込み、カッシオを罠にかけ、ロデリーゴの恋心を利用する。エミーリアはイアーゴの妻でデズデーモナの侍女。
主要人物の関係。画像を押すと拡大できます。
人物声種役割と関係
オテロテノールヴェネツィア軍の将軍。キプロス島を治め、デズデーモナを妻としています。台本ではムーア人とされます
デズデーモナソプラノオテロの妻。失職したカッシオのために夫へ取りなします
イアーゴバリトンオテロに仕える旗手。カッシオが自分より上の地位に就いたことを恨み、陰謀を進めます
カッシオテノールオテロに重用される将校。イアーゴの仕掛けによって職を失います
エミーリアメゾソプラノデズデーモナに仕える女性で、イアーゴの妻。ハンカチの行方を知る人物です
ロデリーゴテノールデズデーモナに思いを寄せるヴェネツィアの紳士。その恋心をイアーゴに利用されます

ほかに、キプロスの前の統治者モンターノと、ヴェネツィアからの使節ロドヴィーコが登場します。ロドヴィーコは第3幕で、オテロを本国へ呼び戻す命令を届けます。

なお、ムーア人という呼び名は、当時のヨーロッパで北アフリカなどに関わる人々に用いられた歴史的な呼称です。

幕ごとの詳しいあらすじ

第1幕|勝利の夜に仕掛けられた酒席の罠

キプロス島の港では、人々が嵐の海を見つめ、オテロの船の無事を祈っています。ようやく上陸したオテロは「喜べ!」と呼びかけ、敵が戦いと嵐によって敗れたことを報告します。

旗手イアーゴは、自分を差し置いてカッシオを昇進させたオテロを恨んでいます。デズデーモナに恋するロデリーゴに近づくと、彼女はいずれ夫に飽きるだろうと持ちかけ、恋をかなえる手助けを装って仲間に引き込みます。

人々がかがり火を囲んで勝利を祝うなか、イアーゴは酒に弱いカッシオに杯を勧めます。デズデーモナをたたえる乾杯に続き、陽気な酒の歌でさらに飲ませ、カッシオを酔わせていきます。

イアーゴにけしかけられたロデリーゴがカッシオを挑発し、騒ぎは乱闘へ発展。止めようとしたモンターノが、カッシオの剣で傷を負います。

騒動を鎮めに現れたオテロは、軍の規律を乱したカッシオを解任。陰で騒ぎを仕組んだイアーゴには、市中の平穏を取り戻すよう命じます。

人々が去ると、オテロとデズデーモナの愛の二重唱が始まります。二人が振り返るのは、オテロが戦いや放浪、奴隷として苦しんだ経験を語り、デズデーモナが耳を傾けていた日々です。彼女は彼の苦難に心を寄せ、彼はその思いやりを愛しました。

妻の抱擁に安らぐオテロは、この幸福のさなかなら死を迎えてもよいと歌い、口づけを求めます。

港を望む城のテラスで抱き合うオテロとデズデーモナ

第2幕|善意の取りなしが、不倫の疑いに変わる

城では、イアーゴが失職したカッシオに、デズデーモナへ助けを求めるよう勧めます。妻が取りなせばオテロも許すはずだと聞き、カッシオは彼女のもとへ向かいます。

一人になると、イアーゴは「クレド」を歌います。自分は残酷な神に造られ、人間は悪を行うために生まれた、死の先には何もないと語る独白です。

オテロが現れると、庭でデズデーモナと話していたカッシオが立ち去ります。イアーゴは、その様子に何か隠し事があるような言葉を漏らし、カッシオは結婚前から二人の仲を知っていたのかと尋ねます。

オテロによれば、カッシオはかつてデズデーモナへの贈り物や伝言を運んでくれた人物でした。イアーゴはその親しさを足がかりに、二人の関係をほのめかしていきます。

そこへ子どもたちや島の人々が、花や贈り物を携えてデズデーモナをたたえに来ます。その歌に心を動かされたオテロは、彼女が自分を欺くなどありえないと、いったんは疑いを打ち消しかけます。

人々が去ったあと、デズデーモナはカッシオへの許しを願います。彼を気の毒に思って熱心に頼む妻に対し、オテロは今はその話をしたくないと苛立ちます。

頭の痛みを訴えるオテロを気遣い、デズデーモナは夫から贈られたハンカチで額を包もうとします。オテロが払いのけると、その品が地面へ落ちます。

拾ったエミーリアに、イアーゴはハンカチを渡すよう要求。抵抗する妻から力ずくで奪い取り、カッシオの部屋へ忍ばせることを企てます。

エミーリアが拾ったハンカチを奪おうとするイアーゴ

妻への疑いに苦しむオテロは「今こそ永遠の別れ」と歌い、戦場での栄光や、軍人として生きる誇りまで失ったように感じます。その一方、イアーゴには不貞の証拠を突きつけるよう迫ります。

イアーゴは、カッシオが寝言でデズデーモナへの愛を語ったという作り話を聞かせます。さらに、妻に贈ったハンカチをカッシオが持っていたと告げ、オテロを復讐へ向かわせます。

オテロがひざまずいて復讐を誓うと、イアーゴもその隣で忠誠を誓います。二人の声が力強く重なり、第2幕が閉じます。

第3幕|見せられた「証拠」と、衆人の前での侮辱

ヴェネツィアの使節が近づくなか、デズデーモナは再びカッシオの復職を頼みます。オテロは、かつて贈ったハンカチを出すよう求めます。

手元にないと答える妻に、オテロは、それには魔力があり、失くしたり他人に与えたりすれば災いになると語ります。デズデーモナは、その話でカッシオへの願いをそらさないでほしいと訴えますが、オテロは妻を不貞の女として侮辱し、追い出してしまいます。

一人になったオテロは、貧しさも恥辱も耐えられたはずなのに、心の支えだった愛を奪われた苦しみには耐えられないと歌います。

イアーゴはオテロを物陰へ隠すと、カッシオを招き入れます。話題にするのは、カッシオと関わりのある女性ビアンカですが、その名は小声で告げ、隠れているオテロには聞こえないようにします。

カッシオの笑い声を聞いたオテロは、妻との関係を得意げに話しているのだと思い込みます。さらにカッシオは、誰が置いたのかわからないまま部屋で見つけたハンカチを取り出します。

それを手に取ったイアーゴは、オテロから見えるように示します。妻に贈った品を見たオテロは、彼女がカッシオに渡したのだと確信します。

柱の陰からイアーゴとカッシオの会話をうかがうオテロ

オテロはデズデーモナを殺すと決め、イアーゴは寝台で窒息させるよう勧めます。カッシオの始末は自分に任せるよう申し出たイアーゴを、オテロは昇進させます。

使節ロドヴィーコが到着し、オテロに本国からの書状を渡します。オテロが読む傍らで、デズデーモナはカッシオが再び夫に許されることを願い、彼への親愛を口にします。その言葉にオテロは激昂し、彼女に襲いかかろうとしますが、ロドヴィーコが制止します。

オテロはカッシオを呼び寄せ、自分をヴェネツィアへ召還し、後任をカッシオとする命令を一同に発表。妻を慰めるよう促されても、逆に彼女をつかみ、地面へ倒してしまいます。

デズデーモナの嘆きに、周囲の驚きや同情の声が重なります。その最中にもイアーゴは陰謀を進め、ロデリーゴにカッシオ殺害をけしかけます。彼が死ねばオテロ夫妻の出発を遅らせ、デズデーモナを島にとどめられると説くのです。

ついにオテロは人々を追い払い、錯乱して倒れます。外から英雄をたたえる声が聞こえるなか、イアーゴは倒れた将軍を示し、「これがあの獅子だ」と勝ち誇ります。

第4幕|柳の歌と祈り、そして遅すぎた真実

夜、寝室で夫を待つデズデーモナは、エミーリアに白い婚礼の衣装を寝台へ広げるよう頼みます。自分が先に死ぬことがあれば、その布とともに葬ってほしいとも告げ、エミーリアを心配させます。

デズデーモナが思い出すのは、母に仕えていた娘バルバラの「柳の歌」です。愛する男に捨てられたバルバラは、その歌を口ずさんでいました。

髪をほどいてもらいながら歌い始めたデズデーモナは、エミーリアへ言葉をかけたり、物音におびえて歌を止めたりします。やがて彼女を抱きしめて別れを告げると、一人で「アヴェ・マリア」を歌い、床に就きます。

エミーリアに髪を整えてもらいながら柳の歌を歌うデズデーモナ

オテロが寝室に入ってきます。眠る妻に口づけると、目を覚ました彼女に、祈りを済ませたかと尋ねます。そして、カッシオを愛し、ハンカチを贈ったはずだと問い詰めます。

身に覚えのないデズデーモナは、カッシオ本人を呼んで確かめるよう懇願します。カッシオの殺害をイアーゴに任せていたオテロは、彼はもう死んだと告げます。妻の動揺さえ恋人の死への嘆きと思い込み、弁明を退けます。

せめてもう少し生きさせてほしいという願いも退け、オテロは妻を窒息させます。

扉をたたいて入ってきたエミーリアは、カッシオがロデリーゴを殺し、カッシオ自身は生きていると知らせます。そのとき、寝台からデズデーモナの声がします。

駆け寄ったエミーリアに、デズデーモナは無実を訴えます。誰に殺されたのかと問われると、自分自身だと答え、夫への伝言を残して息絶えます。オテロは、自分が殺したと認めます。

妻はカッシオと通じていた、イアーゴから聞いたのだと言うオテロに、エミーリアは声を上げて助けを呼びます。人々が集まると、夫の制止にも屈せず、自分が拾ったハンカチをイアーゴが力ずくで奪ったと証言。カッシオはそれを部屋で見つけたと答え、モンターノも、死にゆくロデリーゴがイアーゴの悪事を明かしたと伝えます。

企みを暴かれたイアーゴは逃走し、人々がそのあとを追います。

妻の無実を知ったオテロは寝台へ近づき、デズデーモナの名を呼びます。やがて隠し持っていた短剣で自らを刺し、妻にもう一度口づけを求めながら亡くなります。

亡きデズデーモナの寝台のそばで嘆くオテロ

有名曲と聴きどころ

夜の窓辺に垂れる柳の枝と灯火

最初は、第4幕の「柳の歌」と「アヴェ・マリア」を続けて聴いてみてください。物語全体を知らなくても、デズデーモナの声の繊細な変化を味わえます。

全曲では、序曲なしに始まる嵐の場面も聴き逃せません。激しく動く弦楽器、金管や打楽器、切迫した合唱が重なるなか、オテロが短い「喜べ!」の一声で登場します。長いアリアを歌う前から、その人物の威厳が伝わる書き方です。

愛の二重唱「すでに夜もふけた」|第1幕

原語の歌い出し:Già nella notte densa

嵐と酒宴のあとの静けさを、柔らかなチェロの響きが導きます。二人は思い出を交互に歌い、やがて互いへの愛を確かめます。

聴きたいのは、登場時の力強い声から、妻へ語りかける柔らかな声へ変わるオテロです。役柄には重厚な声量に加え、弱い声を保ちながら長く旋律をつなぐ表現も求められます。

イアーゴの「クレド」|第2幕

原語の歌い出し:Credo in un Dio crudel

「クレド」は「私は信じる」の意味です。イアーゴが自分の信条を語るこの独唱では、荒々しい管弦楽に乗せた断言と、声をひそめる語りが交互に現れます。

同じバリトンの声でも、言葉を強く打ち出すところと、嘲るように軽く扱うところで印象が変わります。死の先を問い、最後に「無」へ行き着くくだりまで、声の調子を追ってみてください。

復讐の二重唱「そうだ、大理石のような天にかけて誓う」|第2幕

原語の歌い出し:Sì, pel ciel marmoreo giuro!

強いリズムに乗ってテノールとバリトンが声を合わせる、第2幕の結びです。鋭いアクセントと重なる声が、誓いの言葉を押し進めます。

オテロとイアーゴが同じ言葉を歌い、音楽の上では一つになるところに注目してください。妻との対話を失いつつあるオテロが、今はイアーゴと呼吸を合わせています。

オテロの独白「神よ、あらゆる災いを」|第3幕

原語の歌い出し:Dio! mi potevi scagliar tutti i mali

妻を追い出した直後、オテロが一人で歌う独白です。直前の激しい応酬から、声は低く、沈み込むような語りへ変わります。

そこから旋律が広がり、失われたと信じる幸福への思いがあふれます。怒りの場面と同じ人物が歌っているからこそ、強い声だけでは表せない疲弊や嘆きが際立ちます。

「柳の歌」と「アヴェ・マリア」|第4幕

原語の歌い出し:Piangea cantando nell’erma landa/Ave Maria, piena di grazia

「柳の歌」では、コーラングレの寂しげな音色が、デズデーモナの回想を包みます。「柳よ」と繰り返す旋律の間にエミーリアへの言葉が入り、遠い歌の記憶と、目の前の不安が行き来します。

「アヴェ・マリア」はイタリア語の祈りです。語りかけるような同じ高さの音の繰り返しから、旋律が静かに広がります。息の長い歌が、小さな声のままどこまで保たれるか。終わりの「アーメン」まで、響きの細さと緊張を聴きたい場面です。

オテロの最期「誰も私を恐れるな」|第4幕

原語の歌い出し:Niun mi tema

真実を知ったオテロが妻の亡骸に向かう、最後の独唱です。名を呼ぶ声が途切れ、言葉の間に管弦楽が入り込みます。

聴く目印は、第1幕の口づけに結びついていた旋律が戻るところです。以前は妻と声を交わしていたオテロが、今は一人で口づけを求めます。声が弱まったあとの管弦楽まで、続けて聴いてみてください。

ハンカチと祈りから読む《オテロ》

暗い木箱の上に置かれた刺繍入りの白いハンカチ

イアーゴは「自分の目で確かめた」という確信をつくる

イアーゴの罠は、オテロが求める「証拠」に合わせて姿を変えます。最初はカッシオの態度をほのめかし、次に寝言の作り話を聞かせ、最後には会話とハンカチを直接見せます。

ハンカチがカッシオの手にあるからといって、デズデーモナが彼に贈ったとは限りません。カッシオが女性の話をして笑っていることも、デズデーモナと関係がある証明にはなりません。イアーゴは、事実の断片に嘘の説明を結びつけ、オテロ自身に結論を出させます。

このため、妻が真実を語っても疑いは解けません。カッシオを呼んで確かめてほしいという訴えを退ける寝室の場面では、オテロはすでに、本人同士の証言を照らし合わせる機会を閉ざしています。

その揺らぎには、彼自身の不安も関わっています。第2幕でオテロは、恋の駆け引きに長けていないことや年齢、肌の色について思い悩みます。軍人としての自信があっても、妻に愛され続ける確信までは持てません。イアーゴはその心の隙を突き、オテロは無実を訴える妻を殺す決断へ進んでしまいます。

イアーゴの「信じる」と、デズデーモナの「祈る」

第2幕の「クレド」と第4幕の「アヴェ・マリア」は、一人になった人物が、神と人間について歌う場面です。イアーゴは人間の悪と死後の虚無を断言し、デズデーモナは罪を犯した者にも、無実の者にも慈悲を求めます。

カッシオの失職に対しても、イアーゴは次の陰謀に利用し、デズデーモナは気の毒に思って救おうとします。それぞれが独唱で示す考え方は、他者への行動にもつながっています。

第4幕前半では、陰謀を動かしてきたイアーゴが姿を消し、デズデーモナの記憶と祈りに時間が与えられます。ここで語られるのは、夫の疑いが描く不倫の物語とはまったく異なる彼女の内面です。その声を十分に聴いたあとで、オテロが寝室に入ってきます。

成立背景

《アイーダ》のあと、再び新作オペラへ

初演当時、ヴェルディは73歳。1871年の《アイーダ》から約16年を隔てた新作オペラでした。その間には《レクイエム》を作曲し、《シモン・ボッカネグラ》などの改訂にも取り組んでいます。

ジョヴァンニ・ボルディーニによるヴェルディの肖像
ジョヴァンニ・ボルディーニ《ヴェルディの肖像》(1886年)。Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典・利用条件

1879年、出版人ジュリオ・リコルディとボーイトが、シェイクスピアの悲劇をオペラにする構想を持ちかけます。計画はすぐに本格的な作曲へ進んだわけではなく、ヴェルディとボーイトが時間をかけて練り上げ、1886年に総譜が完成しました。

ボーイトは台本作者であるとともに、オペラ《メフィストーフェレ》を作曲した音楽家でした。ヴェルディとの協力は《オテロ》に続き、最後のオペラ《ファルスタッフ》へつながります。

アンブロージョ・チェンテナーリによるボーイトの木版肖像
アンブロージョ・チェンテナーリによるボーイトの木版肖像。『L’illustrazione popolare』(1887年)掲載。Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典・利用条件

原作の第1幕を省き、嵐から始める

シェイクスピアの原作は全5幕で、ヴェネツィアでの出来事から始まります。オテロとデズデーモナの結婚や、彼女の父の反対もそこで描かれます。

ボーイトはその幕を省き、キプロス島の嵐から劇を始めます。二人のなれそめは第1幕最後の二重唱へ移され、出会いそのものを演じず、夫婦が思い出を語り合う場面になりました。

イアーゴの「クレド」も、ボーイトが新たに設けた独白です。一方、原作に登場するビアンカは、オペラでは会話のなかで名前が出るだけで、舞台には現れません。人物と場面を絞りながら、独唱や二重唱としてじっくり聴かせる箇所をつくっています。

スカラ座での初演と、その後の改訂

初演は1887年2月5日、ミラノ・スカラ座。フランコ・ファッチョの指揮で、オテロをフランチェスコ・タマーニョ、デズデーモナをロミルダ・パンタレオーニ、イアーゴをヴィクトル・モーレルが歌い、成功を収めました。

ヴェルディとオテロ初演を扱う1887年の刊行物の図版
《オテロ》初演を扱う『L’Illustrazione Italiana』特別号関連図版(1887年)。リコルディ歴史資料館由来。Wikimedia Commons/パブリックドメイン。 出典・利用条件

1894年のパリ上演に際しては、バレエ音楽の追加や第3幕終結部の改訂なども行われています。通常のイタリア語上演ではバレエを含めない形が一般的です。

音楽にも、場面をつなぎながら劇を進める工夫が行き渡っています。独唱の途中に短い会話が入り、複数の人物が別々の思いを同時に歌い、管弦楽が言葉のない動作を支えます。「柳の歌」にエミーリアへの呼びかけが挟まるのも、その一例です。

初めて観るなら、夫婦の言葉とイアーゴの話し方を追う

初めて観るときは、人物の表情や動きと、歌の調子が一致しているかに注目してみてください。とくにイアーゴは、相手によって声や態度を変えます。カッシオには陽気に、オテロには慎重に、エミーリアには威圧的に接する違いに、歌手の表現が表れます。

字幕を追うのに慣れてきたら、歌っていない人物の反応にも目を向けてください。第2幕で妻を見つめるオテロ、第3幕で会話を盗み聞くオテロは、言葉の内容だけでは捉えきれない心の変化を見せます。

大きな劇場で嵐と合唱を体感し、そこから夫婦の静かな声へ耳を澄ませる。その響きの幅も、《オテロ》を全曲で味わう楽しみです。

参考資料

作曲家と名曲の物語を、
YouTubeでも解説しています。
クラシック音楽の事件簿 — YouTubeで見る
オペラ
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