ヴェルディ《運命の力》あらすじ・聴きどころを解説|親友が宿敵に変わる、愛と復讐の物語

《運命の力》――友情を引き裂く復讐の物語

古い拳銃、封書、赤いバラを置いた木の机

戦場で互いに命を救い合った二人の男。友情を誓った後で、一人が相手の正体を知ります。親友は、父の仇として追い続けていた男でした。

ヴェルディのオペラ《運命の力》は、駆け落ちの夜に起きた事故から、恋人たちとその家族の長い逃避と追跡を描きます。スペインの屋敷、イタリアの戦場、山あいの修道院を舞台に、三人の人生が交差します。

名高い序曲、レオノーラの祈り、男たちの二重唱。それぞれがどのような場面で響くのか、全4幕の物語とともに紹介します。

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基本情報

項目内容
作品名《運命の力》La forza del destino
作曲ジュゼッペ・ヴェルディ
台本フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ。1869年の改訂にアントニオ・ギスランツォーニが参加
主な原作リバス公アンヘル・デ・サアベドラの戯曲『ドン・アルバロ、または運命の力』。野営地の場面にはシラー『ヴァレンシュタインの陣営』も用いられています
初演1862年11月10日、サンクトペテルブルクの帝室劇場(当時のロシア暦。現在のグレゴリオ暦では11月22日)
改訂版初演1869年2月27日、ミラノ・スカラ座
言語・構成イタリア語、全4幕
物語の舞台18世紀半ばのスペインとイタリア。セビリア、オルナチュエロス周辺、ヴェッレトリ近郊
演奏時間約3時間。休憩込みでは約4時間が目安。2019年の英国ロイヤル・オペラ公演では各幕の予定時間が合計180分、開演から終演まで約3時間55分。

この記事は、今日の上演で基本となる1869年のミラノ改訂版に沿っています。1862年の初演版とは結末が異なります。[1][2][3]

1分でわかるあらすじ

貴族の娘レオノーラは、父に結婚を反対され、恋人アルヴァーロと駆け落ちしようとします。ところが父に見つかり、アルヴァーロが抵抗しない証しに捨てた銃が暴発。父は亡くなり、二人も逃走中にはぐれます。

兄カルロは、父の死と家の名誉のため、妹とその恋人を殺そうと追い続けます。レオノーラは山の庵に身を隠し、アルヴァーロは軍人に。戦場で出会ったアルヴァーロとカルロは、互いの正体を知らずに命を救い合い、親友になります。

しかし、カルロが相手の正体を知ると、友情は復讐心に変わります。アルヴァーロは修道士となって争いを避けますが、追ってきたカルロに挑発され、ついに決闘へ。カルロに致命傷を負わせてしまいます。

助けを求めて近くの庵を訪ねたアルヴァーロは、そこでレオノーラと再会します。彼女は倒れた兄に駆け寄りますが、兄は最後の力で妹を刺し、命を落とします。レオノーラも、アルヴァーロに神の赦しを伝えて息絶えます。アルヴァーロは恋人を失い、その悲しみを抱えて生き残ります。[1]

登場人物と関係

レオノーラとアルヴァーロは恋人、カルロは彼女の兄。戦場で結ばれる男たちの友情が、正体の判明によって崩れます。

物語の中心は、レオノーラ、恋人アルヴァーロ、兄カルロの三人です。

ドンナ・レオノーラ(ソプラノ)
カラトラーヴァ侯爵の娘。アルヴァーロを愛し、事件後は兄の追跡を逃れて隠遁します

ドン・アルヴァーロ(テノール)
レオノーラの恋人。南米出身で、スペイン系の父とインカ王族の母を持ちます。戦場ではカルロの親友になります

ドン・カルロ・ディ・ヴァルガス(バリトン)
レオノーラの兄。父の死と家の名誉のため、妹とアルヴァーロを追います

グァルディアーノ神父(バス)
フランシスコ会の修道院長。レオノーラを保護し、終幕ではアルヴァーロを諭します

プレツィオジッラ(メゾソプラノ)
占いや歌で人々を引きつけ、若者たちを戦争へと駆り立てる女性です

フラ・メリトーネ(バリトン)
同じ修道院の修道士。小言や不平も多く、厳粛な場面とは異なる庶民的な表情を見せます

レオノーラとカルロの父カラトラーヴァ侯爵はバスの役で、娘とアルヴァーロの結婚に反対します。レオノーラの侍女クッラ、旅の案内役から行商人になるトラブーコも登場します。[1]

全4幕の詳しいあらすじ

第1幕|駆け落ちの夜、捨てた拳銃が暴発する

拳銃を捨てたアルヴァーロ、驚くレオノーラと倒れかかる侯爵

スペイン、セビリアのカラトラーヴァ侯爵の屋敷。レオノーラは、恋人アルヴァーロと家を出る準備をしています。

侯爵はアルヴァーロの出自を蔑み、娘の相手にふさわしくないと考えています。それでも娘には愛情を示し、この夜も優しく別れの挨拶をして部屋へ戻りました。レオノーラは父を裏切ることに苦しみ、侍女クッラに促されても決心がつきません。迎えに来たアルヴァーロにも、出発を翌日まで延ばしてほしいと頼みます。

アルヴァーロが自分への愛を疑うと、レオノーラは思いを伝え、同行を決意します。二人が立ち去ろうとしたとき、侯爵が踏み込んできます。

侯爵は娘を罵り、召使いたちにアルヴァーロを捕らえさせようとします。アルヴァーロは一度拳銃で制しますが、レオノーラの名誉に傷はなく、責任は自分にあると訴え、抵抗しない証しに銃を床へ投げ捨てます。

銃は床に当たった拍子に発砲し、弾丸が侯爵に命中します。駆け寄る娘を侯爵は退け、呪いの言葉を残します。アルヴァーロはレオノーラを連れて逃れますが、その後の逃走で二人は離ればなれになってしまいます。[1]

第2幕|兄の追跡を逃れ、レオノーラは庵へ向かう

石の十字架の前にひざまずくレオノーラとグァルディアーノ神父

舞台はオルナチュエロスの宿屋へ。レオノーラの兄カルロは、父の死と家の名誉のため、妹とアルヴァーロの両方を殺そうとしています。学生に姿を変え、食事中の客に交じって行方を探ります。

同じ宿には、男装したレオノーラが案内役のトラブーコと滞在しています。兄に気づいた彼女は身を隠します。

プレツィオジッラが戦争の魅力を歌い、人々をイタリアでの戦いへ誘います。カルロの手相を見ると、不幸な未来を告げ、学生という身分も信じていないと耳打ちします。やがて巡礼者の祈りが聞こえ、客たちも祈りに加わります。

カルロはトラブーコに同行者の素性をしつこく尋ねますが、逆に自分の身元を問われます。そこでペレーダという学生を名乗り、自分の家族の事件を「友人の話」に置き換えて語ります。妹の恋人が父を殺したこと、妹も死んだという噂があること、男がアメリカへ向かったという話です。

話を聞いたレオノーラは、死んだかもしれないと思っていたアルヴァーロが生きていると知ります。同時に、自分を置いて去ったのだと思い込み、深く傷つきます。

レオノーラは山あいの修道院へたどり着き、〈憐れみの聖母よ〉で助けを求めます。別の聖職者クレート神父の紹介を受け、院長のグァルディアーノ神父を訪ねてきたのです。門番役のメリトーネは深夜の来訪に不平を漏らしますが、院長へ取り次ぎます。

レオノーラは、アルヴァーロが父を殺したのは意図せぬ事故だったこと、兄が自分の命を狙っていることを打ち明けます。神父が修道院への入所を勧めても、彼女が望むのは、岩山の庵で一人祈り続ける暮らしでした。

神父は彼女の覚悟を確かめ、庵での生活を認めます。その正体はほかの修道士には伏せ、食べ物は神父自身が届けることに。危険が迫ったときや死の間際には、庵の鐘で知らせるよう伝えます。

修道士たちは庵へ近づくことを禁じられ、レオノーラは〈天使の聖母よ〉を歌います。男声合唱の祈りに包まれながら、彼女は一人、庵へ向かいます。[1]

第3幕|命の恩人が、追い続けた父の仇だった

負傷したアルヴァーロから鍵を受け取るカルロ

イタリアのヴェッレトリ近郊。アルヴァーロはフェデリーコ・エレーロスという偽名を使い、スペイン軍の将校として戦っています。

ここで彼の出生が語られます。父は祖国を異国の支配から解放しようとし、インカ王族の女性と結ばれました。計画は失敗し、アルヴァーロは牢獄で生まれ、両親を失っています。自分にも高貴な血筋がありながら、それを隠して生きる男です。

レオノーラは死んだと思い込み、生きる望みを失った彼は、戦いのなかで自分の死を求めています。〈天使の胸に抱かれた君よ〉で呼びかける相手は、天国にいると信じる恋人です。

助けを求める声を聞いてアルヴァーロが駆けつけると、賭博の争いに巻き込まれたカルロがいました。カルロもフェリーチェ・デ・ボルノスという偽名を名乗ります。互いの正体を知らない二人は、命を救われたことをきっかけに友情を誓います。

続く戦闘でアルヴァーロが重傷を負うと、今度はカルロが彼を助けます。カルロが武勲に対するカラトラーヴァ騎士団の勲章の話をすると、アルヴァーロはその名に激しく反応します。

死を覚悟したアルヴァーロは、鍵を託し、荷物の中の封書を死後に読まずに焼いてほしいと頼みます。二重唱〈この厳粛な時に〉でカルロは約束しますが、先ほどの反応から、友が父の仇ではないかと疑い始めます。封書を手に取り、開けようとしては誓いを思い出し、思いとどまります。

未開封の封書を脇に置き、妹の小さな肖像を見つめるカルロ

カルロは封書を開けず、別の証拠を探します。荷物にあった小箱には封がなく、開けないという約束もしていません。その中にレオノーラの肖像を見つけ、友の正体がドン・アルヴァーロだと確信します。

医師が回復の見込みを告げると、カルロは歓喜します。その喜びの理由は、もはや友の命が助かることではありません。自分の手で復讐できるからです。

回復したアルヴァーロにカルロは正体を明かし、決闘を迫ります。レオノーラが生きていると聞いたアルヴァーロは、二人で彼女を探し、結婚によって和解しようと提案しますが、カルロは拒絶。妹も殺すと告げ、二人は剣を抜きます。

巡回の兵士たちが割って入り、決闘は中断されます。アルヴァーロは剣を捨て、修道院で平安を求めることを決めます。

その後も野営地では大勢の人々の暮らしが続きます。プレツィオジッラの占い、トラブーコの商売、兵士や物売りたちの歌。食べ物を求める農民や、戦いへ連れてこられた新兵も現れます。騒ぎを叱るメリトーネが追い払われると、軍鼓の響きをまねた〈ラタプラン〉が広がり、第3幕は賑やかな群衆の音楽で閉じます。[1]

第4幕|近くにいた恋人との、遅すぎた再会

数年後、スペインの修道院。メリトーネは貧しい人々への食事の施しに追われ、その不平をグァルディアーノ神父にたしなめられています。

アルヴァーロはラッファエーレ神父と名を変え、ここで修道士になっていました。施しを受ける人々は、メリトーネより親切だった彼を懐かしみます。レオノーラが近くの庵に暮らしていることを、アルヴァーロは知りません。

そこへカルロが現れます。5年にわたる追跡の末、ついに宿敵の居場所を突き止めたのです。決闘のための剣まで二本用意しています。

アルヴァーロは争いを拒み、レオノーラの名誉を傷つけてはいないと訴え、膝をついて赦しを求めます。カルロが彼の血筋を蔑むと、一度は剣を手にしますが、思い直して投げ捨てます。それでもカルロは挑発をやめず、平手打ちを加えました。怒りに駆られたアルヴァーロは剣を拾い、二人は外へ出ていきます。

場面はレオノーラの庵へ。長い隠遁生活の後も、彼女の苦しみは消えていません。〈神よ、平和を与えたまえ〉で安らぎを願いながら、今もアルヴァーロを愛していると打ち明けます。人の気配を恐れた彼女は、庵の中へ戻ります。

近くで剣の音が響き、アルヴァーロがカルロに致命傷を負わせます。カルロは死を前に、聖職者に罪を告白して赦しを求める「告解」を願います。自分を呪われた人間だと考えるアルヴァーロは、近くの庵の隠者に助けを頼もうと、戸をたたきます。

レオノーラは中から助けを求めて鐘を鳴らし、戸口に姿を現します。ここで初めて、二人は互いの姿を認めます。

神父に支えられるレオノーラと足元にひざまずくアルヴァーロ

アルヴァーロは、また彼女の家族の血を流してしまったと告げます。倒れているのが兄だと知ったレオノーラは、そのもとへ駆け寄ります。けれどもカルロは、最期まで妹を赦しません。レオノーラは兄に刺され、駆けつけたグァルディアーノ神父に支えられて戻ってきます。

絶望して呪いの言葉を発するアルヴァーロを、神父が諭します。レオノーラも、神の赦しを彼に約束します。アルヴァーロは彼女の足元に身を投げ出し、赦されたと受け止めますが、自分だけが生き続ける苦しみも訴えます。

レオノーラは天国で待つと告げ、息を引き取ります。アルヴァーロの「死んでしまった」という言葉に、神父は「神のもとへ昇った」と応じます。[1]

有名曲と聴きどころ

ろうそくに照らされた石造修道院の礼拝空間

最初に一曲だけ聴くなら、第4幕の〈神よ、平和を与えたまえ〉を。オーケストラから作品の雰囲気を知りたい方には、序曲もよい入口になります。

序曲|三つの強い音から始まる、逃れがたい緊張

冒頭で同じ音が三度、強く鳴らされます。続いて弦楽器のせわしない動きが広がり、舞台が開く前から落ち着かない緊張が生まれます。

その一方で、序曲には後に本編で聴く歌の旋律も現れます。切迫した動きの間から、祈りや慰めを思わせる穏やかな旋律が聞こえるところに注目してみてください。本編を観た後に聴き直すと、それぞれの旋律が誰の場面につながるのかも楽しめます。

〈天使の聖母よ〉|第2幕、レオノーラと修道士たちの祈り

原語の歌い出しは「La vergine degli angeli」。レオノーラが隠遁生活へ向かう、第2幕の最後に歌われます。

男声合唱の落ち着いた響きに、ソプラノの旋律が重なります。宿屋での詮索や追跡の緊張が和らぎ、一人の女性の声が共同の祈りに包まれる響きを味わえる曲です。

〈天使の胸に抱かれた君よ〉|第3幕、死んだと信じる恋人への呼びかけ

「O tu che in seno agli angeli」で始まるテノールのアリアです。クラリネットの独奏に続き、アルヴァーロが天国にいると信じるレオノーラに救いを求めます。

静かな楽器の響きから、嘆きが高まるにつれて広がるテノールの声へ。この変化に耳を向けると、独りきりで恋人を思う切実さが伝わります。

〈この厳粛な時に〉|第3幕、二人の男が交わす誓い

「Solenne in quest’ora」として知られる、アルヴァーロとカルロの二重唱です。死を覚悟したアルヴァーロが秘密の処分を託し、カルロが引き受けます。

傷ついたアルヴァーロのテノールに、カルロのバリトンが落ち着いて答えます。二人の声が柔らかく寄り添う響きは、剣を抜いて対立する二重唱とは大きく異なります。

〈わが運命を決する箱よ〉|第3幕、カルロの迷いが復讐へ変わる

原語は「Urna fatale del mio destino」。友への誓いと、正体を確かめたい欲求の間で揺れるカルロのアリアです。

封書を開けるべきか迷う部分から、肖像を発見し、相手の回復を喜ぶ〈彼は助かる! この大きな喜び〉へ続けて聴いてみてください。抑えていた歌が勢いを得るにつれ、その喜びの恐ろしさが浮かび上がります。

〈神よ、平和を与えたまえ〉|第4幕、祈っても消えない愛

「Pace, pace, mio Dio!」。題名にある「平和」は、レオノーラ自身の心の安らぎを指しています。

冒頭の長い音に込められた息、静かな祈りから激しい嘆きへ移る声、恋人の名を呼ぶときの変化。声を弱めた箇所でも、言葉と旋律を最後までつなぐ歌い方に耳を向けてみてください。

終わり近くで人の接近に気づくと、歌は「呪い」の言葉へ変わります。静かな祈りが突然鋭くなる瞬間から、外の世界への恐れが伝わります。[1][4]

銃の暴発と復讐の誓い――「運命」を動かしているのは何か

二本の細剣と封書、小さな肖像入れを置いた机

偶然の事故を、カルロは復讐の理由に変えていく

銃の暴発や、偽名で出会った二人が親友になる展開には、偶然が大きく働いています。それに対し、カルロが長年追跡を続け、決闘を求めるのは本人の選択です。彼は父の死に加えて、妹が家の意に反する恋をしたことも、血で償わせるべき不名誉だと考えています。

封書と小箱への態度にも、彼の名誉観が表れます。約束したことは守っても、それ以外の方法で友の秘密を暴くことは自分に許します。友情の中で知った相手の勇気や誠実さも、正体が分かった途端に、復讐を思いとどまる理由にはならなくなります。

アルヴァーロにも、血筋への侮辱と平手打ちに耐えきれず、捨てた剣を拾う瞬間があります。台本の行動を追うと、この悲劇は偶然に導かれながら、名誉への執着や怒りによって進んでいく、と読むことができます。

祈りの静けさと、戦場の賑わいが隣り合う

宿屋や野営地の群衆場面では、独唱や二重唱を中心に進んできた物語が、踊りや合唱を伴う大勢の人々の世界へ広がります。

プレツィオジッラが歌う戦争の栄光と、食べ物を求める農民や不安を抱く新兵の姿を並べて見ると、〈ラタプラン〉の軽快さも複雑に響きます。人々を一つにするリズムが、戦いを歓迎する熱気を作っているからです。

修道院にも日常はあります。メリトーネは施しをしながら苛立ち、神父は忍耐を説きます。笑いを誘うやり取りを挟むことで、祈りの場所も、さまざまな人間が暮らす場所として見えてきます。

厳粛な祈りの直後にも、戦場の悲嘆の傍らにも、別の人々の生活が続きます。悲劇と喜劇、独唱と群衆の音楽が入れ替わる構成に、この作品の大きな特徴があります。[1]

ロシア初演からミラノ改訂へ――結末を書き換えたヴェルディ

《運命の力》は、サンクトペテルブルクの帝室劇場のために作られました。台本を担当したのは、《リゴレット》《椿姫》でもヴェルディと組んだピアーヴェです。

帽子と白いスカーフを身につけた晩年のヴェルディ
ジョヴァンニ・ボルディーニ《ヴェルディの肖像》(1886年)。ローマ国立近代美術館所蔵。Public domain。 出典

中心となる原作はスペインの戯曲ですが、野営地にはシラーの作品も取り入れられました。恋人と家族の争いに、兵士や商人、農民たちの世界が大きく入り込む構成は、成立の段階から用意されていたものです。

リコルディ刊《運命の力》改訂版台本の表紙
リコルディ刊《運命の力》台本(1869年)の表紙。University of North Carolina/Internet Archive経由。Public domain。 出典

1862年の初演後、ヴェルディは作品を大きく見直します。病に倒れたピアーヴェに代わり、台本の改訂には、のちに《アイーダ》を手がけるギスランツォーニが参加しました。1869年にスカラ座で披露された改訂版では、場面の構成が変わり、今日親しまれる長い序曲も加えられます。

アーチの回廊と中庭を描いたカルロ・フェッラーリオの舞台美術案
カルロ・フェッラーリオによる《運命の力》の舞台美術案「修道院の中庭」(1869年)。Archivio Storico Ricordi/CC BY-SA 4.0。縮小・WebP変換。 出典/ライセンス

とりわけ大きいのが終幕です。初演版では、レオノーラの死後にアルヴァーロも崖から身を投げます。改訂版では彼を生き残らせ、レオノーラと神父の言葉によって、神の赦しを受け止める場面が置かれました。

初演版は中心となる三人すべての死で終わり、改訂版はアルヴァーロに生き続ける苦しみを残します。最後の静かな三重唱に耳を向けると、ヴェルディが結末に加えた祈りの時間を感じ取れます。[1][2][4]

初めて観るなら、名前より「相手を誰だと思っているか」を追う

このオペラを観るときは、偽名をすべて覚える必要はありません。第3幕では、アルヴァーロとカルロが互いの正体を知らないこと、アルヴァーロはレオノーラが死んだと思っていることを押さえれば、会話の意味を追いやすくなります。

物語が群衆の場面へ移ったら、合唱や踊りのリズムを楽しんでみてください。静かな祈り、戦場の喧騒、男たちの対決へと、音楽の規模も表情も変わっていきます。

終盤の対決では、かつて友を励ましたカルロが、どのような声でアルヴァーロを追い詰めるのか。その違いを聴くと、友情が憎しみへ変わる怖さを感じられます。

参考資料

  1. Librettidopera.it《La forza del destino》1869年版イタリア語台本 — 登場人物、舞台、各幕の出来事、歌詞、改訂版と初演版の結末を確認。本文の物語はこの台本に基づき、日本語で独自に記述しています。
  2. ミラノ・スカラ座《La forza del destino》2024/25シーズン解説資料 — 初演、改訂の経緯、原作、結末の変更を確認。
  3. 英国ロイヤル・オペラ《La forza del destino》2019年4月2日公演資料 — ミラノ版の使用、各幕・休憩時間、上演の所要時間を確認。
  4. IMSLP《La forza del destino》楽譜・作品情報 — 1869年改訂版の楽譜、初演日のグレゴリオ暦表記、音楽構成を参照。

歴史資料画像の出典

作曲家と名曲の物語を、
YouTubeでも解説しています。
クラシック音楽の事件簿 — YouTubeで見る
オペラ
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